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屋上では、未だ煌々と駐屯地内を照らすライトの存在。
「ライトを、消さなけりゃ……」
「キミ! ここは我々が片付けるから早く中に戻りなさい!」
「銃声も聞かれた……血の臭いも、いずれ……」
「オイ! 早く戻れと言っているんだ!」
死者には視力もあれば聴覚もある。
緩やかな風は血臭を運び、招かざる客を引き寄せるだろう。
統也は生唾を飲み込み、声を上げる。
「ヤツらが来る!!」
そう叫んだ言下、周囲から上がる悲鳴。
「きやぁあぁあぁあぁ!!」
「うわぁあぁあぁ!! ゾンビだ! ゾンビが来やがった!!」
「何だ、あの大群はぁ!?」
最悪の予感が的中。
降って沸いたか、否、元々 周囲に潜んでいたのだろう死者達が、食欲に駆られて騒ぎの中心にと集おうとている。
隊員等は再びライフルを構え、バリケードの隙間から顔を出す死者達に向けて発砲。
大きくなる騒ぎに、避難者達のパニックは収まりようが無い。
「駄目です! そんな事したら、余計にアイツらを呼び寄せてしまう!」
「どけ! 子供は下がってるんだ!!」
「バリケードは越えられません!
ライトを消して血の臭いを誤魔化して、中に籠もって大人しくしていれば、
ヤツらは諦める筈です!」
「1匹でも多く倒す!! そうすれば、我々が怯えて生きる必要も無いんだ!!」
統也の言葉は届かない。
正門に群がる死者達を前に、隊員達は冷静さを欠いている。
確かに、銃によって制すれば僅かな死者を葬る事は出来るだろう。
だが、弾数が足りるとは思えない。
(ヤツらは基本、非力だ。でも、集れば……)
「何で分かってくれないんですか!!」
正門前には頭を打ち抜かれた死体が次々に積まれていく。
それは次第に死者達の足場となって、バリケードを跨ぐに至るだろう。
(あの群れの中に【例外的な蘇えり】がいる可能性もある!
そんなのを呼び込んだら、こんな砦、エサ箱にしかならない!!)
他の死者との比では無い、強い力を持った蘇えりの存在。
最悪のケースを想定すれば、こうしてはいられない。
統也はロビーに舞い戻り、騒然とする一同に避難を呼びかける。
「皆サン、落ち着いて!! 静かに! 一箇所に纏まって隠れれば大丈夫ですから!
ヤツらは目も見える! 音も聞こえる! 騒げば余計に呼び寄せてしまうんです!」
「見えるんだったら隠れても無駄じゃねぇか!!」
「緒方サン、だからこそ隠れるんです! 見えなければ追って来られないでしょう!」
「うぅぅ……そ、そんな事言ったってよぉ、」
「皆を食堂に集めて、静かにさせて! 良いですね!? 頼めますね!?」
「ぉ、おぉ、やってみらぁよ!」
「俺は屋上のライトを消しに行って来ます!
明かりがなくなれば、隊員の人達もヤツらを狙えなくなる!
戻って来たら一緒に隠れてください! 日夏、お前も緒方サンを手伝ってくれ!」
「は、はい! と、統也サン、でも、1人で……」
「大丈夫、まだ中にはいないだろうから。平家サンの事も頼んだぞ?」
「は、はい!」
「ちょっと待って! 1人は危ないよ! 隠れるなら一緒に!
ライトなら他の隊員に頼んで、消させたらイイんだって!」
「平家サン、今は誰とか言ってる時じゃありませんからっ、」
「ぁ、あの、統也サン、……ゅ、由月サンがいないんですっ、」
「!?」
この騒ぎで皆がロビーに集っていると言うのに、由月の姿は見当たらない。
(1人で部屋にいるのか!?)
日夏はブルブルと震えている。この状態で由月を探せるとは思えない。
「分かった。彼女の事も俺が見て来るから」
「ぁ、あぁ、でも、ぼ、僕も……あぁ、でも……、」
「分かってるよ、日夏。そっちは頼んだぞ?」
「は、はぃ……、」
結局、肝心な事は統也任せ。




