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医務室から部屋へ戻る最中も、統也のショックは拭えない。
仁美は統也の傍らに身を寄せ、様子を気遣う。
「あの子、統也クンの友達なんだ?」
「はぃ……」
「田島クン、だっけ?
あの人達が面倒見てくれるって言うなら任せるしかないよ。
今はそうするしか無いんだから、ね?」
「由月サンも研究してくれてますから、僕達はそれを信じて待ちましょう!」
「靖田君、キミさ、エンジン切れるとホント、大川サン頼りだよな?
松尾サンも言ってただろ? 情報が足りてないって。
それが無けりゃ机上の空論も立たないって事だ」
「そんな、由月サンならっ」
「だからぁ、そうゆうのが大川サンのプレッシャーになったりするんだよッ、
田島君の事にしたってどうなるかも分からねぇのに、適当な事言ってんじゃねぇって! 水原君も そこんトコはちゃんと言わなきゃ駄目だろ!」
曖昧な観測で何度も出鼻を挫かれている。他人に縋ろうと、結果は自らに返るのだ。だからこそ、下手な慰めは統也の為にはならない。
統也にも『周りに勝手な事を言わせておくな!』と言う岩屋に、仁美は露骨な不満顔を見せる。
「それ、私にも言ってます?」
「言ってますが?」
「……あ。そうですか。まぁイイですけど」
「は?」
仁美はここでだんまり。
岩屋の様な男と言い合ってもラチがあかないとでも言いたげに、仁美はフン! と顔を背けて無視。さすれば岩屋も苛立たしげに溜息を零す。
「ハァ、だから嫌なんだよッ、ったく!」
岩屋は3人を置いて足早に部屋へ戻る。
やはり、ソリが合わない。仁美も女だてらに舌打ちをするから負けん気が強い。
オロオロと小心翼翼な日夏は、やはりしょげ返る。
「す、すいません、統也サン……僕、勝手な事を……」
「日夏が謝る事なんて無いだろ? ありがとう。皆、気遣ってくれて。
大丈夫だよ。俺も大川サンを当てにしているし、自分で出来る事はしなきゃと思ってる。だから、仲良くやっていきましょう。ね? 平家サンも」
「……まぁ、そのつもりではいるけどね」
話を纏め、ロビーに差しかかった所で、外の様子が慌しい事に気づく。
窓ガラス越しに見える夜の闇の中を、まるでミラーボールが光を乱反射させる様に明かりが飛び回っている。
「何だ、あの光?」
「も、もしかして……ソンビ、来た?」
「化け、化け物!?」
この騒ぎに、隊員や避難者達もロビーに集る。
「日夏、平家サンを頼む!」
「と、統也サン!?」
「ちょ、ちょっと! こんなのに私を任すなっての!!」
統也は2人を後ろ手に制し、隊員等と共に外に飛び出すと、隊舎の屋上を見上げる。
「ぁ、あれは……何で、木下隊員が……」
「ぶら下がってる……アイツ、死んでる、のか……?」
光の正体は隊舎の屋上に設置されている投光機。それが傾き、首を振っている。
木下は投光機の太いコードで首を吊り、ブラブラと宙に揺れている。
「タイムラグ……」
いつ影響が表面化するか分からない。それは個人差があるもの。
統也の呟きに、隊員達は震え上がる。
「じ、自殺者か!?」
「拙いぞ……早く何とかしなけりゃ蘇える……また、あの時みたいに!!」
「ぉ、落ち着けッ、蘇えったとしても一体! あの日とは違う!
冷静に速やかに対処すれば良い! この距離から木下の頭を狙撃する!!」
「待て! 発砲許可が下りてない!」
「そんな猶予があると思ってるのか!? 今すぐ狙撃だ! 狙撃の準備をするんだ!!」
隊員達は揃ってライフルを構える。
「ま、待って……」
統也の制止は隊員等の耳に届かぬ儘、トリガーが引かれる。
ダン!! ダダダダ、ダン!!
一振り。二振り。
木下の体は大きく揺れ、そのまま落下。
ベシャリ……と鈍い音を立て収拾。
統也は その瞬間から目を背けるが、最悪の予想に悪寒が止まらない。
「ヤ、バ、イ……」




