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食事を済ませ、岩屋達と共に部屋へと向かう途中、統也の目に松尾の姿が映る。
玄関前で木下からの現状報告を聞いている様だが、これはチャンスだ。
「松尾将補!」
松尾が振り返って間も無く、統也は駆け込む。
「田島に、田島に会わせてください!!」
由月は田島の死を予感するからこそ、あんな縁起でもない事を言ったに違いない。
ならば、容体を確認せずにはいられない統也の嘆願に、松尾は口調を穏やかに言う。
「あぁ、キミは確かぁ……田島君の友人だったね?
大丈夫だ、彼は我々が責任を持って治療に当たっている。
それに、今さっき他県にも生存者が集う避難所があると確認された。
そこに幾らかの医療物資もあるそうだから、明日にでも行って」
「それは本当に良かったです!
でも、田島が本当に無事でいるのか確認したいんです!
勿論、皆サンを疑っているわけじゃなく、友人として!」
感情的に訴える行為が幼稚である事は解かっていても、一切の面会を許可されない事には疑念を抱いてしまうのだ。統也のこの剣幕に、松尾は一息を落とす。
「――そうだな。会わせないと言うのも誤解を生む。着たまえ、彼の所に案内するから」
「ありがとうございます!!」
統也の粘り勝ち。
これに便乗する岩屋・日夏・仁美も、統也の後に続く。
*
駐屯地内でも隅に設けられた医務室前は、見張りまで立てる厳重さに一同は固唾を飲む。
室内にはストレッチャーに寝かされ、ベルトで固定された田島がいる。
統也は田島に駆け寄ると、憂惧に松尾を振り返る。
「な、何で こんな拘束を……」
「いつ命を落とすか分からない。
蘇える事にでもなれば、ここの者達を危険にさらす事になる。理解してくれたまえ」
「……田島、」
田島は当初に比べて肌の色も土色に変色し、随分と痩せ細っている。
腕に刺さった1本の点滴針が心許なく命を支え、心電図が鼓動を伝えるばかりだ。
「彼のこんな姿を見せては、キミ達もショックだろうと思ったのだがね」
「……明日には、もう少し良い環境になるんですよね? ここは、」
「幾ばくかは。医師がいる訳では無いから、過度な期待はせんでくれよ?」
由月の仮説を信じるとすれば、医者がいた所で改善に繋がったかは分からない。
地球が気まぐれを起こして、明日には元通りの心音に戻ってくれれば話は別だが。
(この人達は何処まで知っているんだ? 大川由月の仮説を聞いているのか?)
「……大川サンは、田島の治療に当たっているんですか?」
「いいや。彼女には死者と眠る者についての調査をさせている。
だが、情報が少ない今は何とも言えんとね。もう少し期待していたのだが……
あぁいや、彼女もここへ来て間も無い。
発狂者についての調べも進めて貰っているから、手が混んでいるのだろう。
時機に仮説の1つくらいは持って来るだろうから、キミ達も何か気づいた事があったら
協力してやってくれたまえ」
松尾の言葉に嘘は無さそうだ。だからこそ、合点がいかない。
(何故だ……
俺にはあれだけの事を言ったのに、肝心の人達には何も言っていない?
信用してないって事か? ここの人達を……)
松尾は出入口のドアを開ける。
「さぁ、もう良いだろう。
引き続き彼の事は我々が監視するから安心したまえ」
治療でも無ければ看病でも無い『監視』の言葉に、一同は顔を見合わせる。
(田島が危険な存在だと分かったら、この人達は田島を善処する……
田島が殺される……)
*




