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菓子パンに缶詰1つ。それが今晩の食事。
岩屋は割り箸で缶詰をつつきながら、力ない不満を零す。
「はぁぁぁ、寿司が食いてぇ……」
駐屯地の作業に就いて初日だが、疲れも一入。
夕食を楽しみに戻って来たれば、配給された質素な食糧で凌がなくてはならないからガッカリだ。涙目の岩屋に統也は苦笑する。
「仕方ありませんよ。
少ないとは言え、1日3食も食べられるんですから、感謝しないと」
「でもな、朝はカンパン五粒に昼メシはカップ麺で、夜にはコッペパンにサバ缶って……」
「ハハハ。自分で選んだんじゃありませんか。
それなら俺の焼き鳥缶、食べますか? 味を変えれば進むかも知れませんよ?」
「そりゃ良い! 水原君はホント気が利くよなぁ! ユトリにしては まぁまぁだ!」
ユトリに対する岩屋の偏見は いつまでも変わらない。
最も、言われ慣れてしまえば笑い話だから、統也と日夏は小首を傾げて顔を見合わせる。
こうして空腹を中途半端に誤魔化しつつ、統也は昼間の出来事を思い出す。
『ただ、覚悟なさい』
(あの後の、彼女の言葉が耳から離れない……)
『ここの連中の所為で研究が台無しになったけれど、蘇えりには個体差がある』
『……感覚が鋭いヤツもいるって事ですよね?』
『ええ。その個体差は、眠りの期間によって生じているんじゃないかと』
『どうゆう意味ですか?』
『眠りが長ければ長い程、地球の心音に適応する。耐性が作られるとも考えられるけど、
どちらにせよ、死んだ後には例外的に強い力を持って蘇えっている』
優れた感覚を持つ特殊なケースを生む死者の事例に、眠りの期間が関係している。
これはホームページには書かれていない由月の憶測だ。
『田島の事を……言っているんですか?』
『ええ』
田島は既に6日間を眠り続け、睡魔発生からの時間を含めれば、優に2ヶ月以上が経過している。
由月は統也にそれを確認し、田島が脅威に繋がる存在である事も自覚させたかったのだろう。
『田島が死ぬって……そう考えているんですかっ?』
『可能性の1つとして』
『何でそんな事言うんです!?』
『アナタの問う、眠りや自殺・発狂のタイムラグも、個体差としか言いようが無い。
けれど、決定的な結論を出す前に、眠る者は蘇えりの者によって捕食されている。
だから、あくまでも仮説よ。けれど、私の考えに間違いが無かったなら……』
『だったら何だって言うんですか!?』
『彼を死なせてはならない』
『!』
『それでも死なせてしまったら……その時は、アナタが殺してあげなさい』
由月の言う、恐ろしい可能性の予言。
友人の回復を願い続けた統也には想像したくもない苦渋に、仁美は食事の手を止める。
「統也クンっ?」
「!」
仁美の呼びかけに、統也は息を飲んで我に返る。
「だ、大丈夫ですか? 統也サン……」
「顔色悪いぞ、水原君」
「ホラぁ、ちゃんと食べなきゃっ、人に食べ物恵んでるからそんなんなるんだよっ?」
「俺は恵んで貰ったわけじゃねぇぞ! トレードだ、トレード!」
「ハハハ。すいません、寝不足ですよ、寝不足。今日こそは早く寝なくちゃ……」
皆を不安がらせない為にも、田島の今後を相談する事は出来ない。
今は未だ、胸に秘めておこう。
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