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「眠りや自殺、発狂にしろ、どうして人によってタイムラグがあるんでしょうか?
それに、死んだ人間が蘇える何て……」
「地球の奏でる心音が変化した」
「!」
全てはそこに起因する。
由月は指先で足元の砂に円を描く。
「地球の心音は7.8ヘルツ。私達はその鼓動を聴きながら誕生し、進化する。
そうなるよう、私達の生態系は予め設定されている」
「設定?」
「ええ。地球環境は7.8ヘルツに調律されているの。
それが人類にとって、最も居心地の良い空間。地上の生命体に共通して言える体質」
「7.8ヘルツって、具体的には……」
「f分の1の揺らぎのようなもの」
「す、すいません、それはどうゆう……」
「これに限っては科学的に立証されてはいないのだけど、スペクトル密度が反比例する揺らぎ。
……そうね、川のせせらぎのようなものかしら」
「あぁ。それは確かに、居心地良さそうですね」
「これは私の仮説よ。
起きている時点で、私達は狂った地球の心音=不協和音を聴き続けなくてはならなくなった。
その影響から逃れる為、脳の松果体が過剰に反応し、
【眠り】と言う防御態勢を取らせたのではないか、と」
動物界では一定期間を眠る事によって、食料不足を乗り切る知恵がある。
又、そうする事によって低体温による生命の安定が図られると言われている。
最も、人間に於いてそのサイクルは適応しないのだが、眠りによる安息の獲得は確かな事。
身近な話で言えば、つまらない授業を聞きたくないからこそ訪れる睡魔の様なもの。
(地球の発する不協和音から逃れる唯一の方法が、眠る事……
眠る事で、自殺願望や発狂、蘇えりを防御している……だとしたら、)
「こうして起きている俺達は、今も不協和音を聴き続けているって事ですかっ?」
「そうなるわね。地球の心音は7.8ヘルツから年々上昇。そして、
16ヘルツ周辺に近づいてからは、私達の体にある遺伝子に強力な影響を与え続けている」
「それが、自殺者や発狂者を生んだ……」
「私達の体は絶えず細胞分裂を繰り返しているの。
その時、螺旋状の遺伝子が解ける瞬間、16ヘルツ周辺の電磁波がDNAを攻撃する。
その際、自殺者や発狂者は、眠り以外の方法で不協和音に適応したのだと私は予測している。
たまたまその反応が、自殺者は速やかな死を持って、発狂者は暴挙を働く事に繋がった」
「自由……」
「そう。自由」
統也の父親も雅之も『自由』を謳っていた。
「俺も……何れは、自殺や発狂をするんでしょうか?」
「どうかしら? そうかも知れないし、そうはならないかも知れないし。
どう振り分けられるかはDNAレベルの問題よ。タイムラグにしろ、誰にも分からない。
とても静かなものなのよ。
カルシウムイオンを奪い、人が人である為の正常な遺伝情報を破壊するだけ。
その現象に感触も無ければ、直接的な死を招く事も無い。
ただ、少しずつ変化していく。変化に気づいた頃には手遅れよ」
「手詰まり、って事ですか……」
こうして避難が叶おうと、精神的な安寧には程遠い崖っぷち。
早くに覚悟して損する事は無いと言う事だ。
「今、断言できるのは、変化によって磁気体を持つ松果体が刺激されていると言う事だけ。
一方は膨大に分泌されるメラトニンによって眠り、一方は眠りでは無い部分に結びついた。
そこから連想して、手を進めていくしか無いわ」
「俺にはさっぱり分からない……それで、何が連想できるんですか?」
「サードアイチャクラ。第3の目」
それもホームページに書かれていた事だが、岩屋は眉唾と言い、統也も半信半疑な説だ。
「それはぁ何か、複雑な思想っぽいとしか……」
「眠りを飛び越え、人の霊性を開花させる場合もあると、科学的にも立証されている。
神経ホルモンの異常分泌を起こしている以上、疑えない思想だわ」
「は、はぁ……」
「でも、人の霊性を、超能力や霊能力の類とは思わないでちょうだい。
発狂者を引き合いに出せば、単純に、理性の箍を壊す力が働いたと思えば良い」
「理性の箍……だから、発狂……」
「正常な者から見れば発狂でしか無い。
けれど、当人からすれば真の姿に目覚めた霊性の高い存在。
本来、人が持っている当たり前の衝動に突き進み、流されているだけ」




