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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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「昨日の晩って……夜ですか? 何でっ?

昨日は一緒に早くに寝たじゃないですか、それでどうして由月サンにっ?

いつ会ったんですかっ?」

「ぃゃ、たまたま……」

「たまたま会うんですかっ? 由月サンの部屋は僕達とは反対側の棟で上の階なのにっ?

それなのに、たまたま会えるんですか!?」

「ト、トイレにさ、行こうと思って……暗くて迷ったんだよっ、

そ、それで困っていた所にバッタリ!

あの人も寝つけなかったみたいで、本当に助かったよ!」


(な、何だよ日夏っ、もしかして大川由月の事……)


 統也の言い訳はピンと来るものでは無いが、これも信頼関係の成せる技か、

日夏は充分に納得し、安心した様子で肩の力を抜く。


「何だ、そっかぁ。由月サンはすごいなぁ、困っている人の所にパッと現れるんですね!」

「ぁ、あぁ……そうゆう考え方、前向きで良いと思う、うん、」


 今後、日夏に由月の事を聞くのは控えるべきかも知れない。



「ちょっと宜しいですか?」



 噂をすればだ。由月が2人の作業場に現れる。

昨日までは白衣にロングスカートだったが、今日には長い髪を後ろに一纏めにひっつめ、女性隊員の物だろう白い長袖Tシャツに、迷彩柄のパンツを履いている。

研究職としてトレードマークの白衣はその儘に、まるで軍医の様なコーディネイト。


「ゅ、由月サン、どうしたんですか、その格好!? ビックリしました!」

「動き易い物をとお借りしたのだけど、私には大きくてだらしないわね」

「由月サンはスマートだからしょうがないです! でも似合ってます! 素敵です!」


 見事な太鼓持ちと言いたい所だが、これも日夏の本音なのだろう。


(昨日の夜、スカートを破いたからか……

着る物だって恵まれてるわけじゃないのに、俺ってヤツは、)


 猛省。由月は項垂れる統也に目を向ける。


「水原統也君、でしたね?」

「え!? はい、俺、ですか? はい、そうですっ」

「お友達の事を少し聞きたいのだけど、手は空けられますか?」

「田島ですね!? 勿論です!」

「では、こちらへ」


 2人の背を見送る日夏は、しょんぼりと肩を落とす。



 統也は日夏に箒を預け、親鴨の後ろをついて歩く子鴨の様に由月の背を追う。


「後ろを着かれては話にくいのですが?」

「ぁ、す、すみませんっ、」


 高圧的。

由月には人を阻む威圧感があるから、隣りを歩くにも気が引けていた所。


(大川由月……大学教授には見えないな。学生? 学生でこの貫禄って、すごいな)


「ぁ、あの、昨日は、すみませんでした、」

「いいえ。アナタが悪いのでは無いので、謝らないで結構です」

「は、はぁ……それじゃぁ、えっと……今日は田島に会わせて貰えるんでしょうか?

昨日は、隊員の方に断られてしまって……」


 駐屯地に着いて直ぐに田島の容体を尋ねた統也だが、隊員の返答は『目下治療中です。面会は暫くお控えください』と、事務的なあしらい。

又、点滴治療で延命は可能だとも聞いているから心配無用なのだろうが、見舞う事も出来ないとなると不信感が募る。


「私は死者や眠る者についての考察を求められているだけで、

その件について言える事は何もありません」

「そう、ですか……」


 由月は正面玄関前で立ち止まり、足元の段差に腰かける。


「彼が眠ってから、今日で6日目と言うのは確かですか?」

「はい。変化が起きた初日に。

でも、その2ヶ月くらい前からかな、眠気がおさまらないって言ってました。

てっきり夏病だろうって……」


 眠い程度、何の事は無い。

そう高を括っていたが、もう少し慎重に話を聞いてやるべきだったと統也は後悔している。

由月の隣に腰を下ろし、反省続きに肩を落とす。


「影響をずっと以前から感じていた……

そうゆう人達は、自らの心身の変化を夏病と思っていたし、医者もそう診断していたわ」

「ニュースじゃ時々、夏病で暴れる人がいたってありましたけど……

もしかして、その時点で発狂者も現れていたんでしょうか?」

「私はそう捉えています」

「ハァ、何でもっと早く……」


 的確な判断を下せる者がいたなら迎える現実は違ったものになっていたのでは無いか、全てが悔やまれてならない。



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