75
「統也クン!」
統也がロビーに戻れば、仁美は一目散に駆け寄る。
そして、その隣にいる由月を見るなり、口の両端に力が入る。
「……この人だったの? 外にいたの、」
「あぁ、ええ、何か……息抜きに散歩をしていただけだったみたいで、ハハハハハ、」
「ふーん……」
由月は目を伏せた儘2人を見ようともしない。それ所か、怨言を零す。
「よくも邪魔をしてくれたわね? 後悔するわよ?」
「ぇ?」
世界が変化してから、後悔のしっ放しだ。
これ以上どう後悔させられると言うのか、由月が踵を返すと統也は慌てて呼び止める。
「ま、待ってください! け、怪我は……ありませんでした、か?」
由月を引き留めるも、気拙さの余り目を向けられない。
だが、全ては不可抗力なのであって、ただただ善意。他意は無かった事を伝えたい。
「えっと、すみません……そのm女性だと分かっていればもう少し……
スカートも、すみません……」
(ここへ来てからも色々あったから、大川由月の事を岩屋サン達に聞きそびれていた。
あんな研究をしているから、胆の据わった、ずっと年上の人だとばかり思っていたのに、
まさかこんなに若い何て……)
女性を押し倒したのは これが初めての事。
存外、真面目な統也の恐縮しきった様に、由月は溜息をつく。
「痛かったけれど、怪我はしていないわ。
私も……申し訳なかったわね。あんな非生産的な説教に付き合わせてしまって」
「ぃ、いえ! 全部、俺の所為ですからっ」
「それから、お礼も言っておくべきね。
アナタのお陰で拘束されずに済みました。ありがとう」
由月は部屋へと戻って行く。
統也達の部屋とは真逆の廊下へ向かう事から、由月には特別室が宛がわれている様だ。
呆然と由月の背を見送る統也に、仁美は眉を顰める。
「ねぇッ、何なの!?」
我に返る統也は瞬きを繰り返し、首を傾げる。
「な、何ですか? 平家サン」
「――別にッ、……あぁもぉイイ! 何でもナイっ、私、寝るから!」
顔を背け、仁美は統也を置いて部屋に戻ってしまう。
女心は難しい。
*
――6日目。
早朝から作業に駆り出される。
駐屯地内には様々な施設棟があるも、死者との戦闘で殆どが使い物にならなくなっている。
現在、確保されている生活領域は、隊舎と車庫、その2つを繋ぐグラウンドだけだ。
統也と日夏は清掃係として、敷地内に散らばるガラスの破片やら残骸を箒で掻き集める。
「そう言えば、まだ由月サンを紹介してませんでしたね!」
昨夜は熟睡できたらしく、日夏の顔色は良い。
尊敬する統也とも無事に再会を果せた事もあり、表情は頗る明るい。
「本当は昨日の夕食の時にでもって思っていたんですが、由月サンはいらっしゃらなくて……
多分、研究が思うように進められないから、食事どころじゃ無かったのかも……」
それを他所に自分達は呑気に腹拵えをしていたと思うと、忽ち申し訳なくなって来る。
これは拙い。又も日夏がしょげ返る前に話を進めてしまおう。
「日夏、研究って言うのは、アイツらの生態とか、そうゆうのだよな?」
「はい!
由月サンは大学の研究室で、世界がこんな風になってしまった原因を調べてて、
それと一緒に化け物の観察もしていました!
お陰で僕らは色々な事を教えて貰えて、ここに辿り着く事が出来たのだって、
由月サンが後押ししてくれたから何です! 僕の事も、ずっと励ましてくれました!
統也サンが生きている事だって、由月サンには分かっていたし、
由月サンは本当にすごくて、素晴らしい人なんです!!」
「ゎ、分かったよ、日夏、落ち着けって、」
熱弁する日夏を見るのは初めてだ。
キラキラと目を輝かせ、頬を真っ赤に染める様は恋する乙女と言って過言では無い。
「後で由月サンを紹介しますね!」
「サンキュ。でも、昨日の晩に会えたから大丈夫だよ」
「え……?」
ピタリと、日夏の手が止まる。
(あれ? 俺、何かマズイ事を言ったのか……?)
日夏は両手で箒の柄をギュッと握り、今に泣き出しそうな顔をして統也に詰め寄る。




