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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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「統也クン!」


 統也がロビーに戻れば、仁美は一目散に駆け寄る。

そして、その隣にいる由月を見るなり、口の両端に力が入る。


「……この人だったの? 外にいたの、」

「あぁ、ええ、何か……息抜きに散歩をしていただけだったみたいで、ハハハハハ、」

「ふーん……」


 由月は目を伏せた儘2人を見ようともしない。それ所か、怨言を零す。



「よくも邪魔をしてくれたわね? 後悔するわよ?」


「ぇ?」



 世界が変化してから、後悔のしっ放しだ。

これ以上どう後悔させられると言うのか、由月が踵を返すと統也は慌てて呼び止める。


「ま、待ってください! け、怪我は……ありませんでした、か?」


 由月を引き留めるも、気拙さの余り目を向けられない。

だが、全ては不可抗力なのであって、ただただ善意。他意は無かった事を伝えたい。


「えっと、すみません……そのm女性だと分かっていればもう少し……

スカートも、すみません……」


(ここへ来てからも色々あったから、大川由月の事を岩屋サン達に聞きそびれていた。

あんな研究をしているから、胆の据わった、ずっと年上の人だとばかり思っていたのに、

まさかこんなに若い何て……)


 女性を押し倒したのは これが初めての事。

存外、真面目な統也の恐縮しきった様に、由月は溜息をつく。


「痛かったけれど、怪我はしていないわ。

私も……申し訳なかったわね。あんな非生産的な説教に付き合わせてしまって」

「ぃ、いえ! 全部、俺の所為ですからっ」

「それから、お礼も言っておくべきね。

アナタのお陰で拘束されずに済みました。ありがとう」


 由月は部屋へと戻って行く。

統也達の部屋とは真逆の廊下へ向かう事から、由月には特別室が宛がわれている様だ。

呆然と由月の背を見送る統也に、仁美は眉を顰める。


「ねぇッ、何なの!?」


 我に返る統也は瞬きを繰り返し、首を傾げる。


「な、何ですか? 平家サン」

「――別にッ、……あぁもぉイイ! 何でもナイっ、私、寝るから!」


 顔を背け、仁美は統也を置いて部屋に戻ってしまう。

女心は難しい。



*



 ――6日目。


 早朝から作業に駆り出される。

駐屯地内には様々な施設棟があるも、死者との戦闘で殆どが使い物にならなくなっている。

現在、確保されている生活領域は、隊舎と車庫、その2つを繋ぐグラウンドだけだ。

統也と日夏は清掃係として、敷地内に散らばるガラスの破片やら残骸を箒で掻き集める。



「そう言えば、まだ由月サンを紹介してませんでしたね!」



 昨夜は熟睡できたらしく、日夏の顔色は良い。

尊敬する統也とも無事に再会を果せた事もあり、表情は頗る明るい。


「本当は昨日の夕食の時にでもって思っていたんですが、由月サンはいらっしゃらなくて……

多分、研究が思うように進められないから、食事どころじゃ無かったのかも……」


 それを他所に自分達は呑気に腹拵えをしていたと思うと、忽ち申し訳なくなって来る。

これは拙い。又も日夏がしょげ返る前に話を進めてしまおう。


「日夏、研究って言うのは、アイツらの生態とか、そうゆうのだよな?」

「はい!

由月サンは大学の研究室で、世界がこんな風になってしまった原因を調べてて、

それと一緒に化け物の観察もしていました!

お陰で僕らは色々な事を教えて貰えて、ここに辿り着く事が出来たのだって、

由月サンが後押ししてくれたから何です! 僕の事も、ずっと励ましてくれました!

統也サンが生きている事だって、由月サンには分かっていたし、

由月サンは本当にすごくて、素晴らしい人なんです!!」

「ゎ、分かったよ、日夏、落ち着けって、」


 熱弁する日夏を見るのは初めてだ。

キラキラと目を輝かせ、頬を真っ赤に染める様は恋する乙女と言って過言では無い。


「後で由月サンを紹介しますね!」

「サンキュ。でも、昨日の晩に会えたから大丈夫だよ」

「え……?」


 ピタリと、日夏の手が止まる。


(あれ? 俺、何かマズイ事を言ったのか……?)


 日夏は両手で箒の柄をギュッと握り、今に泣き出しそうな顔をして統也に詰め寄る。



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