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「統也クンはさ、彼女はいないの?」
「!」
続け様の質問に統也の脳裏に思い浮かぶのは、世界の異変に気づく切欠を与えた人物、堀内だ。
(彼女って言われて堀内を思い出すのか……
そうだよな、だって堀内はすごくキレイで、高嶺の花で、告られた時はすごく嬉しかった)
「ええ。いましたよ」
「……ふーん。ま。いるだろうね、統也クンなら」
「そうですか?」
「ん。何かモテそう」
「そんな事ありませんよ。からっきし全然です。非モテ街道まっしぐら」
「それはナイっしょぉ。モテるヤツって、自覚症状ナイのが多いからね。
彼女いたんなら、皆、空気読んで身ぃ引いてたんじゃない?」
「どうかな、俺、基本ボーっとしてましたから」
「じゃ、やっぱり気づいてナイ系だ。で? 彼女は? やっぱ……ダメだった?」
「……ぇぇ、残念ながら」
統也は小さく頷く。
気になったとは言え、やはり拙い事を聞いてしまった様だ。
これでは岩屋達を兎や角言えない。仁美はバツが悪そうに目を伏せる。
「気にしないでください。俺だけじゃないですから。大切な人を失ったのは」
今いる生存者の誰もが、家族や恋人・友人を失っている。
辛く悲しい事だが、それを糧にして乗り越えなくてはならない。
その寸暇、統也は玄関前を走り去る人影を視界に収める。
暗がり中のほんの一瞬の出来事だが、見間違いとは思えない。
統也は警戒心に併せて立ち上がる。
「ど、どうしたのっ?」
「誰か、外を通り過ぎたように見えたんですが……」
「何だぁ、ビビらせないでよ。それなら警備してる人達でしょ?」
「そうかな……明かりも持たずに?」
巡回中の隊員なら懐中電灯を持っている筈だ。
そうでは無いとすると、些か奇妙。
「平家サンはここにいてください。俺、見てきます」
「はぁ!? ダメに決まってんじゃん!
夜は絶対出ちゃダメって、松尾って人が言ってたでしょッ?」
「大丈夫です。少しだから」
少しも何も駄目なものは駄目なのだが、こうゆう事には聞き分けが無いのが統也。
仁美をロビーに残し、携帯電話のライトを照明がわりに外に出る。
夜間警備は2人1組。
敷地内をグルグルと巡回するのだと聞いている。
玄関前で左右を見やるも隊員の姿は見られないから、人影はその隙を縫って走り去ったのだろう。統也も同じ方向に進む。
(あの動きは生存者だ。でも、何でこんな夜にコソコソと?
まさか、発狂者が紛れ込んでいるんじゃ……)
生存者と発狂者の境界は明確では無い。
ここは1人で追跡するよりも、隊員に報告し、協力して警戒を強化すべきだろう。
そう考え至った所で、正門をよじ登り、敷地外へ出ようとする人影を発見する。
(アレだ!!)
「そこ! 何をしてるんですか!?」
「!」
警備を呼びに行く時間は無かった様だ。
統也の制止に人影はピタリ、と動きを止める。手に何か持っている様だ。
(丸腰で出て来たのはマズかったかも知れない……と言っても、
銃は全て取り上げられてしまったし、何かあれば素手で何とかしなくちゃならない、)
「こんな時間に何処へ行くつもりですか? 外は危険ですよ?」
「……」
「門から降りてください。そうすれば騒ぎにはしませんから」
「……」
穏便に。穏便に。発狂者だとしたら、無闇に刺激してはならない。
携帯電話の細いライトを人影に向け、様子を窺う。
そして、統也がゴクリ……と喉を鳴らすと同時、人影は強行して門を飛び越え様とする。
「ま、待て!!」
駆け出し、人影の足を掴む。
(捕まえた!!)
「何処へ行くのかって、聞いてるんだよ!!」
「!!」
ビリリリリ!! ――ドサッ!!
門に絡みついた有刺鉄線に洋服の裾を引っかけた様だ。
服が裂ける音と共に、2人は揃って背中から倒れ込む。
「イっ……」
「ッッ、」
人影は地面に転がり落ちるも声を飲み込み、性懲りも無く逃亡しようと体を起こす。
「逃がすわけ無いだろ!」




