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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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「水原君、多分その人、死んだぞ。ヤツらに食われて」


「ぇ……」



 日夏の肩を掴む統也の手が、スルリ……と滑り落ちる。

その傍らで、カップ焼きソバを啜っていた仁美の手もピタリ、と止まる。

そして、統也にゆっくりと目を側むのだ。



(雅之が、死んだ……)



 弟の為に必死に頭を下げた雅之の、兄としての姿を思い出す。



「どうして……」



 死者に食われる事に、理由も脈絡も無い。

雅之は発狂者として弟の食事の世話をしていた。

『もう2度としない』と言っていたが、自分の衝動を抑えきれず、生存者捕獲の行為に及び、その結果、始末をしくじったのかも知れない。

そうで無ければ、腹を空かせた弟に自らの肉を提供したのかも知れない。

何にせよ、知る由も無い事だ。


 仁美は統也の袖を引っ張る。


「しょうがないよ……統也クンは良くやったと思うよ?」


 出来る限りの事はした。然し、統也からすれば、それこそ推論の域を出ない。

もっと力になれる事は無かったのかと、自己を責めずにいられない。

仁美は『時と場合を考えて物を言え!』と言いたげに、岩屋と日夏を藪睨む。


「統也クン、行こ? 向こうで休も?」


 統也は仁美に袖を引っ張られるが儘、岩屋と日夏・緒方の輪を外れる。

何処からか仁美が持って来た丸椅子に腰を下ろすと、統也は疲れを露わに背を丸める。

その様子を見届ける岩屋は、日夏の腕を肘で突く。


「何か、知らせちゃ悪い話しだったな?」

「は、はい、すいません、僕、余計な事を……」

「別にキミを責めちゃいないだろ。知らん顔するような話しでも無かったんだし。

でもまぁ、もう少し気ぃ使ってやるべきだったかもな……

あの様子からすると、親父サンも駄目だったんか知れないし」


 身内の件においては触れずを通したが、状況が状況なだけあって人の死に対して少し無頓着になっていた様だ。

岩屋はそう反省しつつも、統也と仁美が気になるらしく、瞥々と見やる。


「それにしても彼女、水原君のか?」

「?」

「女だよ、女ぁ」

「か、彼女って事ですかっ?」

「そうなのか? って聞いてんだよ、俺がぁ」

「ゎ、分かりません、僕、何も聞いてませんし……」


 駐屯地に到着した時点で、統也からは仁美が父親の会社の従業員であった事を併せて紹介されている。

その際、仁美が『ああ、どうも』と、素っ気無い挨拶をした態度に僅かながらの苦手意識を持った訳だが、統也に大しては随分と世話焼き女房面をしているのが意外でならない。


「ああゆうのが好みか、水原君は?」

「ぃ、岩屋サン、今はそっとしておいてあげましょう?」


 携帯電話を貸す程の相手なら、それは親しい友人に違いない。

そんな相手を失ったのだから、統也の傷心は言外だろう。

日夏の制止に岩屋は頷く。




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