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バイクのエンジン音が響けば、自衛隊駐屯地の正門は再び騒がしくなる。
「着きましたよ、平家サン」
「すご……ホントだ! 避難所じゃん!」
統也の話を半信半疑で聞いていた仁美だが、実際目にしてしまえば感動も一入。
駐屯地の正門は開かれ、岩屋達と同じ様に迎えられる。
「速やかにバイクを降りなさい」
拡声器の声に従い、2人はバイクを降り、統也はヘルメットを外す。
そこに、日夏と岩屋が駆け込む。
「統也サン!!」
「うわ! ホントだ! マジか!? 水原君じゃないか!!」
たった数日の付き合い。たった数日の別れ。
それでも長い事連れ添って長い事ご無沙汰であった様な気がするのは、一緒にいた時間が深いものだったからだろう。
統也は2人の笑顔を前に深呼吸にも似た一息を吐き、腰を抜かしてその場に座り込む。
「ハハ! 何か、力抜けた……」
*
今日1日で、S県Y市Y地区 自衛隊駐屯地が迎えた一般生存者は6人。
内1人、田島は眠りを発生させているが、新たな仲間が加わった事に、駐屯地の先住者達は心ばかりの夕食会を催す。
「よぉ、兄チャン達、C市から来たってなぁ! 良く生きてここまで辿り着いたなぁ!
俺は緒方ってんだけども、いやぁ、若いもんが増えて良かった!
生きて会えたんだ、ここは安全だし、明日から一緒に頑張ってこぉや!」
昼間は大工仕事に精を出していた緒方は、下っ腹の出た威勢の良い中年男。
統也と日夏の背をバシバシと叩いての歓迎。
2人は口に含んだドリンクを吹き出しそうになりながら、苦笑交じりに頷く。
「こ、こちらこそ宜しくお願いします。
まさか本当に避難所に辿り着ける何て思いませんでした」
「そうだなぁ、こんなんなっちゃぁなぁ……
俺はさ、何人かとここいらの道路工事に来てて運良くだ、逃げ込んで避難させて貰った。
まぁ、同僚の殆どは何だかんだ食われちまったけどな。
あの辺でベシャくってる連中も俺と似たようなもんだ。
あっちに若ぇ姉チャンがいるが、あれでもここの隊員サンだ。
若い男が増えて1番喜んでんのは、女共だろぉなぁ、ハハハハハ!」
緒方は割り箸の先で食堂に集う面々を指す。
早くここに馴染む為にも、新たな仲間達の顔を覚えておこう。
殆どが近所に住まう顔見知りらしく、不便のある環境でも打ち解けている様だ。
統也は緒方の話に相槌を打ちながら、1人1人に目を向ける。
(日夏が言うには、ここはまだ避難所として機能していないそうだけど……
そう考えると、こんな呑気に食事をしていて良いもんなのか、)
今この時にも命の危機に瀕している人々がいると思うと、統也の面持ちは浮かない。
その様子に、岩屋は励ます様に統也の肩を叩く。
「それにしても水原君、キミ、ホントに大したもんだよ。
流石に今回は駄目だろぉって、死んじまったもんだとばっかりさ、なぁ、靖田君」
「はい! 本当に、本当に心配しました!
電話口であんな声が聞こえてきたから……うぅぅっ」
あの瞬間を思い出し、日夏は再び涙き出すが、統也には何の事だかサッパリ分からない。
暫し視線を漂わせ、思料した後に表情を強張らせる。
「電話って……」
「電話だよ。かけただろ? 今朝」
統也の手元にあるのは、父親の携帯電話だ。
岩屋と日夏には、自分の携帯電話を雅之に譲渡した事を伝えていない。
電話をかけたと言うなら、応答したのは雅之に違いない。
統也はドリンクのカップを机上に置き、日夏の肩を掴む。
「誰か出たろっ? 俺のスマホ、人に貸したんだ!」
「え!?」
「何だよ水原君、そうゆう事ならひとこと言いってからだなぁ、」
「雅之は何てっ? 雅之から俺の事、聞かなかったのかっ?」
「ぁ……いえ、その……じゃぁ、あの声は……」
統也の悚然とした様子に、日夏は目を反らす。
とても、あの様子を伝える気にはなれない。代わって岩屋が言及する。




