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「統也サンと出会えたのは、これのお陰なんです。
僕、小さい頃から引っ込み思案で、高校へ行っても友達が作れなくて……
あの日も1人で学校から逃げ出して……怖くて、寂しくて……
このまま死ぬんだろうなって思ったら、最後に誰かと話したくなったんです。
どうせ誰もいないって思ったけど、ネットの掲示板を見て……そしたら、いたんです」
《僕は水原統也です。秀明高校3年、18才です》
「水原統也……」
《生きています》
「生きてるって、嬉しくなった……独りじゃないって、励まされたようで……」
人の命が在る事。それがどれだけ日夏の胸に沁み入った事か。
涙を浮かべる日夏は再びそのページを開く。そして、目を丸めるのだ。
「あれ? ……掲示板、更新されてる?」
《水原統也。今も生きています》
「統也、サン……?」
更新は今日の日付。時間もそう経っていない。
由月は画面を覗き込み、小首を傾げる。
「あら。蘇えったのかしら?」
「そんな、だったら、携帯を使える筈が……」
「それなら、生きていたのでしょ?」
「ぇ、でも、だって……、」
由月は日夏の髪を最後に一撫でし、クルリと踵を返す。
「1人で立ち向かう勇気を持った者が、最期に助けを求めたりはしない。
それが私の結論です」
電話口で聞こえた声は、『助けて』と言いかけていた。
然し、由月はその時点で奇妙さを覚えていたのだ。
日夏は息を飲み、震える指先でメッセージを書き込む。
《待ってます。日夏》
《了解。統也》
直ぐに返されるメッセージ。生きた統也からの電波。日夏は呟く。
「思い出した……」
『どうしても死ななきゃならなくなった時、出来るだけ潔くありたいから』
そう言った統也が、最期を迎えるその時に、日夏からの着信に出るとは思えない。
心配させない為、静かに黙って逝く事を選ぶに違いない。
その事実を、漸くハッキリと思い出せた様だ。
「統也サン、待ってます、待ってます、待ってますから!」
*
室内に響く心電図の音。
部屋の中央には、田島を寝かしつけたストレッチャー。
体はベルトで固定され、身動き取れない状態になってる。
「この設備では心許ないな……」
「仕方がありません。あの騒ぎで殆どの物が壊されてしまいましたから、」
田島を収容した先は、本来なら充実した設備を持つ医務室なのだが、今の環境では点滴を打ち続けるのみ。それも限りある薬品だから、使用には慎重になりたい。
「然し、良く生きていたものだ、この少年は」
「放置されれば間違いなく死者達の餌食だったでしょう。然し、この状態では長くは……」
「薬品を無駄にする事は出来ないが、―― これは尊い命だ。
我々は、眠る者を呼び起こす為の実験を可能な限り試みる必要がある」
眠った者を如何にして目覚めさせるか、と言う課題。
多くが保護する前に死者達の餌食になっている中、ある意味、状態の良い眠る者の実験体が手に入った。生き残りを賭け、出来る限りの結果を出したい。
田島を収容したには、こうした訳があっての事。
「小娘とは言え、研究者の端くれを迎える事が出来たのは不幸中の幸いだ。
彼女の主張では、脳機能が重要と言うじゃないか。とすれば、
この少年の心肺が停止しようと、脳死する前に電気ショックで蘇生し、延命させれば、
蘇えりは防げると言う事になる。最も、愈々となれば始末をつけざる負えんが」
*




