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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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《彼等には眠りの習慣は無く、夜間も日中同様の活動が見られる。

夜目が利くか迄は判明しないが、聴覚・嗅覚のみでも充分に行動が可能。

安心できる事は、感染による蘇えりの拡大が見られない事。

死と言う条件のみが蘇えりの要素と考えられる。

そして、世界における病原菌や化学薬品における汚染の確認も今の所はなされていない。

この事から、現状における異変は先に述べた通り、地球の変調による影響と強く確信できる。

発狂者についての観測は経過観察後、記述するものとする》



「夜は動くのやめ。絶対やめ」

「そ、そうですね。アイツらの方が感覚は優れているみたいだから、気をつけましょう。

それより、この発狂者って言うのは……」

「あぁ、【発狂者】って、的を射てるよね。アレでしょ? 雅之クンみたいなタイプ」


 躊躇われるが、統也の父親も、ここでは発狂者と分類しなくてはならないだろう。


「大川由月は、その発狂者についても、観察してるみたいですね?」

「そうなるねぇ、この文じゃぁ……

って言うか、ゾンビ観察してるくらいだから、それくらいやってるんじゃないの?

あ、でも待って。下、スクロールしてみて。他にも何か書いてない?」


 指先で画面を攫うと、末尾にメッセージが記されている。



《現在、私の近くに眠る者がいる。

18才・男子。眠りについて5日目になるそうだ。まだ生きている。

場所を変えて延命できる事になった。暫くは安心してくれて良い》



「これ、もしかして、田島の事……」


 まるで、統也に向けて知らせるようなメッセージ。



(そうだ、きっとそうだ! 岩屋サンと日夏が田島を連れて大川由月に会った!!

3人は無事に、Y市に辿り着いたんだ!!)



 統也は両手で口を押さえる。喜びの余り叫んでしまいそうだ。



「行きましょう、平家サン! 目的地は決まった!」


「えぇ?」


「自衛隊だ!」



 時間はかかったが、この道を真っ直ぐ進めば程なくS県。

最終目的地はY市の自衛隊駐屯地であると定めれば、迷わずそこに進むだけだ。



*



 由月は部屋に留まる日夏を訪ね、借りていた携帯電話を返す。


「これ、ありがとうございます」

「は、はい!」

「あぁ、大川サン、研究室の準備は出来たのかい?」

「いいえ、まだ。一晩はかかると聞きました」

「あぁあぁ、今日1日、ゾンビの観察は出来ないって事か」

「……」


 継続こそが研究と言う由月にとって、貴重な1日が無駄になった事は大きな損害だ。

落胆を隠せない由月を労わる様に、日夏は話を続ける。


「携帯で何をしていたんですか?」

「大した事ではありません」

「そうですか、」


 日夏は両手に携帯電話を握り、ジッとその画面を見つめる。



「統也サン……」



 電話口で聞こえた統也の苦しむ声が耳に蘇える。

そんな日夏の感傷に、岩屋はベッドに転がり、布団を被る。

相手をしていたら切りが無いとでも言いたげだ。

由月は小さく一息をつくと、日夏の髪を撫でる。


「思い出しているのね」

「はい……」

「それは良い事よ」

「そう、ですか?」

「ええ。人は2度 死ぬ生き物だから」

「え?」

「1度目は肉体の死。2度目は人の記憶から葬り去られる死。忘却は死を意味するの」

「覚えていたら、統也サンは2つ目の世界で生きてる……」

「ええ。記憶の中で」


 由月に撫でられる感触が心地良い。

悲しみが解れてゆく感覚に目を細め、日夏は由月を見つめる。



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