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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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「ぼ、僕は由月サンを信じてます!

だって、僕達生存者の為に命懸けで研究してくれてる……たった1人で!!」


 統也にしろ由月にしろ、1人で立ち向かう勇気を持っている。

それだけでも日夏が羨望し、崇拝するには充分すぎる要素なのだ。

無論、そんな感情論を唱えても、岩屋には暖簾に腕押しでしか無いのだが。


そんな言い合いをしている所にドアがノックされる。



「たった今、生存者2名が到着しました」


「「!」」



 2人が反応すると同時、開錠されたドアが開かれる。


「由月サンも来てくれたんですね!」

「はぁ、そりゃ何にせよ良かった。あの、田島君は?」

「折角ですから接見を。こちらです」


 正面玄関前のロビーに、由月とストレッチャーに乗せられた田島が現れる。

飛び跳ねて喜ぶ日夏が駆け込むも、由月は一瞥を向けるばかりで目を伏せる。

岩屋は木下に問う。


「田島君は治療して貰えるんですよね?」

「治療と言っても、ここには医療班の者が1名いる程度で大した設備も残っていません」

「えぇ!? それはちょっと、話が違うんじゃぁ……」

「最低限です。点滴パックが幾つか……それで暫く延命を図れる筈です。

勿論、彼が目覚めるよう我々も最大限の努力はします」


 もう少し詳しく話を聞いておくべきだったか、

否、体に栄養を入れてやれる分、これ迄よりはずっとマシだ。

期待外れではあっても岩屋は頷き、ストレッチャーで運ばれて行く田島を見送る。



「ま。怖い思いもしねぇでここまで来れたんだ。感謝して貰いたいよ」



 さて、由月は浮かない顔をして松尾と握手を交わす。


「大川由月サンか。

調べさせて貰ったが、若いのに随分と華々しい経歴の持ち主じゃないか。

脳科学に心理学の博士号を持っているとは、実に頼もしい」


 松尾から聞かされる由月の経歴に、日夏の目は一層輝く。

まるで女神でも見る様だ。


「やっぱり由月サンは、すごい人だったんですね!」

「今は気象学を専攻する一介の研究生です。お役に立てる事があるとは思えません」

「部下が研究室の物を幾つか持ち帰ったが、

蘇えりの経過観察がノートパソコンに集積されていて驚いたと言っていた。

あぁ、許可なく持ち出したのは申し訳ないがね、ここの設備は多く破損している。

あちらから持ち出さない事には、キミに研究を続けて貰う事が出来ないんだ。

理解してくれたまえ」

「私は研究室に戻ります。パソコンを返してください」

「なにを言うんだ、有知識者のキミをあんな危険な場所に残しておく事は出来ない。

ここからでも研究が出来るよう向こうの望遠鏡に小型カメラを付けて来させたから、

モニタリングは可能だ。これで文句は無いかろう?」

「私は1人でいたい」

「困った子だ。ここの環境を整える為にもキミには尽力して貰いたいのだよ。

1日でも早く、生存者を安全に迎え入れる為にも」

「――」


 生存者を引き合いに出されては、由月も是と頷くしか無い。


「キミの研究室が整うまでは暫くかかる。それまでは、ここで自由にして貰って構わない。

ああ、岩屋君と靖田君、キミ達もだ。だが、くれぐれも敷地の外には出んでくれよ?

命の保障は出来なくなる。ハッハッハッ!」


 松尾は達観したかの様に歯切れの良い笑いを残し、執務室へと戻って行く。

由月の特権にて自由を獲得した岩屋と日夏は、短い監獄生活からも解放され、安堵の息。

由月は2人に目を側む。


「携帯電話、持っているかしら?」

「はい! どうぞ!」

「お借りするわ」


 由月は日夏から携帯電話を受け取ると、颯爽と隊舎の外に出て行く。

その足並みは、『誰も着いて来るな』と言う様だ。


「由月サン……」

「あ~~あ~~やっぱりな。彼女の事を言ったのはマズかった」

「ど、どうしてですかっ?

さっき、あの松尾サンって人も言っていたじゃないですか、研究はここでも出来るってっ」

「彼女は1人が良いんだよ。

俺達がいたのだって迷惑そうだったし、幾ら少ない生存者とは言え、ここに何人いるよ?

軽く40人はいそうだぞ? ああゆうタイプは集団生活とか絶対無理だ。俺もだけど」


 敷地内には隊服を着ている者もあれば、そうでない者もいる。

きっと避難が適った近隣住人だろう。

隊員の指示に従い、車両整備や大工仕事など、暑い中を環境整備に勤しんでいる。

その内2人も、この作業に駆り出される事だろう。



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