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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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 研究室には一報が入る。

由月はパソコンのキーボードを叩く手を止め、受話器をとる。


「そちらは葉円成都大の研究室ですね?」


 研究室直通の番号を出発する前の岩屋と日夏に教えたが、受話器から聞こえるのは、初めて聞く男の声。これに由月は推理を働かせ、表情を強張らせる。


「――はい。自衛隊の方ですか?」

「はい。Y市Y地区の自衛隊駐屯地の者です。

2時間程前に、生存者である岩屋圭市サンと靖田日夏サンの2名を保護しました。

話によると そちらの研究室に残り2名の生存者がいるとの事、

直ちに救出に向いますので状況説明を願います。

まず、蘇えりの者の大凡の数を教えてください」

「誤解が生じているようです。救援希望は男性1名のみです。私は希望しません」

「はい?」

「彼を救護してくださる事には感謝しますが、身柄の保証を約束して頂けますか?」

「勿論です。僅かですが、こちらには医療設備もあります」

「――そうですか、分かりました。

私はここに残りますので、用が済み次第、速やかにお引き取り頂きます」


 研究室を離れるつもりは無い。

そんな由月の口振りに、電話口の応対が入れ替わる。


「もしもし。我々は専門知識を持った方の協力も求めています。

聞けば貴方は、大学では研究員をなさっているとの事、1度こちらにてお話を聞きたい。

それを条件に貴方がたの受け入れを承諾しています。

お断りになられるようでしたら、現在こちらで保護している2名にも

速やかに引き取って頂く事になりますが、宜しいですかな?」

「!」


 知識提供を要望している様に聞かせながら、最後には取り引きを持ち出すから、流石プロの話術。由月からすれば人質を取られた様なものだ。


 由月は固く拳を握り、ベッドに横たわる田島に目を側む。

このまま寝かせておいても田島の死期は早まるばかりだ。

今は適切な医療を与える是非が迫られている。



*



 自衛隊駐屯地では部屋に閉じ込められた事に諦観し、寝転がる岩屋と、猛省に項垂れる日夏が言葉ない時間を過ごしている。

少なからず、この場所にいれば食事が提供され、徹底的に管理された組織での安全が約束される。

良識ある避難者である事をアピールする為にも、今は黙って過ごすのが得策だ。

だが、好い加減、無言でいるのも嫌気が差したのか、岩屋は隣りのベッドに腰かけて顔を伏せる日夏を見やる。


「なぁ、そうゆう鬱陶しいの、やめないか?」


 泣いて落ち込んで。そんな日夏のネガティブさが岩屋には煩わしくて堪らない。

雖も、言われて立ち直れる程、日夏は単純な男でも無い。


「こんな事になる何て……」

「まぁ、物は考えようだ。

ここにはプロの兵隊がいて、監視体制もバッチリで、その辺全部押しつけて、

俺らは寝て食ってりゃ良いんだから気楽なもんだろ?

きっと今頃、大川サンと田島君も保護されて、大はしゃぎで戻って来るさ」

「由月サンは研究し続けるって言ったの、岩屋サンじゃないですか……」

「あぁ? 言ったから何だってんだよ?

彼女がそうなんじゃないかってだけで、断言した覚えはねぇぞ!」


 岩屋は都合が良い。自分に限っては発言責任が発生しない。

日夏は余計に肩を落とす。16才にして、話にならない大人がいる事を悟った様だ。


「でも、大川サンの事を言ったのはマズかったか知れねぇなぁ」

「え?」

「人の素性ってのは、他人が勝手に言うもんじゃないんだよ。個人情報ってヤツだから。

それなのに、キミが騒ぎ立てるもんだからウッカリ……

大川サンは頭良さそうには見えるけど、ここの人らが要求するだけの仕事が出来るか分からないだろ? 期待ハズレ何て事になったら、お互い顔を合わせにくい」

「由月サンは立派な専門家です! 僕の事だって、あんなに熱心に励ましてくれました!」

「そんなんで この状況が変えられるってなら、誰も行き詰って無いんだよッ、

ああゆうのは机上の空論って言って、頭ん中だけで考えた事が実際 役に立つか何て分かんねんだから!」


 岩屋から言わせれば、由月の言う最もそうな主張は、現実性の薄い御託に過ぎない。

絵空事では組織が動かない事を、岩屋は社会人として良く知っているのだ。

それでも由月の言葉に強く胸を打たれた日夏にとっては、立証されていない空論にしろ真実。



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