64
「いや、あのぉ、確かに連れがいるのは事実ですが……
そちら様のご都合があるのは先程も聞きましたし、受け入れが難しいのも分かります、」
「岩屋サンっ、」
「キミは黙ってろってッ、……あぁ、失礼しました、えぇ、そこで提案なんですけども、
点滴や延命可能な薬品なんかを少しばかり譲っては貰えませんでしょうか?
面倒の方は、こちらの準備が整うまで大学の研究室で診る……と言う形でぇ、」
「待ってください! 研究室でって、由月サン1人に世話をさせるつもりですか!?」
「だからッ、しょうがないだろッ?
どうせ彼女は あそこでゾンビの研究をし続けるって言って聞かないッ、
それに、先方様にこっちの要求ばかり押しつけられないんだよ!」
統也の手前、眠り続ける田島を放っておくのは忍びなくも思う。
然し、いつ死ぬか分からない田島を避難所に持ち込むのも避けたいのだ。
そのくらいの想像力を働かせないでは安全が維持されない。
「ゾンビの研究? そんな事をしているのか、キミ達の連れは」
「え!? ぃ、いやぁ……彼女は我々の連れとは違いますよっ、
たまたま通りかかって知り合っただけで、今は連れを預けているだけですから、」
「うむ。葉円大か……」
暫しの思量。そして、松尾は岩屋に向き直る。
「その人物と言うのは、そこの研究員かね?」
「あぁ、えぇ……どうなんでしょうねぇ、その辺はちょっと詳しく無いので何ともぉ……」
「ゾンビの研究をしていると言うのは確かかね?」
「は、はぁ……そんなような事を言っていたようなぁ……」
「――分かった。我々も専門家の力を必要としていた所だ。
併せてキミ達の連れも、こちらで預かるとしよう」
「え!? 本当ですか!?」
「勿論だ。生存者の存在が分かった以上、見過ごす事は出来ない。
直ぐに救援チームを編成し、葉円大に向かう。
向こうの状況を確認したい。連絡は取れるかね?」
トントン拍子。これ迄の苦労が報われる瞬間だ。
日夏は事前に聞いておいた研究室の連絡先を松尾に教え、『後はこちらで対応する』と言う救援チームを見送る。
その後は世話役として残る隊員=木下に先導され、隊舎内にある一室へと通される。
決して広くは無いが、2段ベッドが壁の左右に並び、寝転がる事が出来る環境だ。
「お疲れでしょうから、ここで休んでください」
木下は そう言うとドアを閉める。
バタン。ガチャリ。
外鍵が閉められる音に2人は言葉も無く顔を見合わせ、遅ればせながらに口を開ける。
「「え!?」」
何の真似か、2人は開かないドアにへばりつき、ドンドンドン! と叩く。
「ちょ、ちょっと、木下サン! ここ、鍵閉めましたよね!?」
「とうしてっ、何でですか!?」
2人の問いに小さなドア窓が開き、そこから木下の双眼が覗く。
「申し訳無い。まだアナタ方が正常な生存者であるかを判断できません。
審議が終わるまでは、どうかご理解を」
「えぇ!? 正常でしょう、どっからどう見ても! アンタ方だってさっき、」
「自分に決定権はありませんので」
「荷物とか、まだ車の中にあるんだよ! それくらい取りに行かせて貰えませんかね!?」
「ここで避難生活をする以上、物資は統括し、各自に平等分配する事になります。
車両に於いても改めての検査後、同じ扱いになります」
「は、はぁ!?」
ここも大きなダメージを負って今に至る。
足りない物はあっても、足りている物は1つも無い。
結果的に騙し討ちに合う2人は、ドアの前で腰を抜かす。
「ゃ、やられた……」
「避難って、これじゃ捕まったみたいじゃないですか、」
人が増えれば増えた分、統制を取る為の規則と規律が必要だ。
それはこれ迄の社会にも言えた事。
基準に従う事で初めて存在が認められ、立場が与えられるのだ。
*




