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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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 由月が話していた通り、研究と予防・対策は同時進行しない。

何かが正しい手順で立証されなければ、次の行動に移る事は出来ない。

不明慮なまま判断を下す事は、二次災害を起こしかねないのだ。

然し、今の日夏に是と頷く事も出来ない。


「でも! ここには車だって戦車だってあるっ、

早く教えてくれれば僕達は直ぐにここを目指して、救援を頼む事だって出来た!

それが出来たら統也サンは!!」

「ォ、オイ、靖田君、落ち着けよッ、

救援要請したって あんな状況じゃ、間に合いっこないだろうがッ、」

「だって、だって、この人達は嘘をついてる! アレは突然の出来事なんかじゃない!

もう前から分かっていた事だって、由月サンが言ってた!

もっと早く、もっと早く教えてくれてれば、生存者を減らす事なんか無かったんだ!!」


 日夏は涙をボロボロと流しながら体を震わせて訴える。

その姿から、隊員の誰もが目を反らす。

胸中では『やれるものならやっている』と答えているのだろうが、出来なかった事実を前に弁明の余地は無い。


「……そうだな、もっと高い意識を持っていれば、事前に察知できたのかも知れない。

然し、我々には何も知らされていなかった。何も知らなかったんだ……」


 物事の大きな決定を下すのは、国の最高機関だ。

隊員の力ない言葉に、日夏もそれ以上の言葉を突きつける事は出来ない。

肩を落とす日夏の背を叩き、岩屋は耳打ちする。


「好い加減にしろってッ、下手に騒げば俺達が発狂者と思われるだろッ?」

「!」

「これだからユトリは……」


 ここまで来て追い出される事にでもなったら堪らない。


 日夏が泣き止む頃、正門から最も近い建物の正面玄関に辿り着く。

看板には隊舎と書かれ、そこには貫禄のある年配の男が立っている。

胸につけた勲章の数に、他の隊員よりも位が上なのだと分かる。



「おお。まさか本当に生存者が自力で辿り着くとは。

報告では偶然に、と言う事だったが?」



 日夏に喋らせては揉めそうだ。岩屋は低姿勢で大きく頷く。


「はい! 偶然と言うか……こちら程であれば必ずや持ち堪えていらっしゃると、

きっと大丈夫だと思ってやって来たんです! 本当に良かったです!」

「一時は どうなるかと思ったがね。

あぁ、自己紹介をしていなかった、私は陸自所属の松尾まつお徳義よしのり将補しょうほだ。

隊の生存者の中で1番年をくっていてな、それもあって ここの指揮を執っている」


 年は50才程、見た目の厳格さとは違い、人当たりは良さそうだ。

松尾が笑顔で手を差し伸べれば、岩屋は素早く握手に応じる。

流石、車のセールスマンをしていただけあって、ご機嫌取りはお手の物。


「うむ。こうして無事に辿り着いたんだ。

まだ隊舎と車庫しか片付いていないが、構わんだろう。部屋を1つ用意して差し上げろ。

世話の方は……木下きのした、お前に任せるぞ」

「了解」

「では、私は敷地内の巡察に出る」


 松尾が歩き出せば、日夏は岩屋を押し退け、その行く手を阻む。


「ぁ、あの! 松尾将補にお願いがあります!」

「ゃ、靖田君、なに言ってんだって、キミはっ、」


 岩屋は慌てて日夏の腕を引く。

然し、エンジンのかかった日夏の勢いは収まらない。


「連れが、葉円大にいるんです! 至急救助して貰いたいんです!」

「葉円大? ああ、あの大学か。まさか生存者が?」

「はい! 連れはもう5日も眠っていて、放っておいたら死んでしまうんです!」

「眠っている、か……」


 松尾は顎に手を添え、気難しげに考え込む。

これは拙い展開だ。

岩屋は日夏を背中に隠す様に引き戻すと、苦笑で以って誤魔化す。



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