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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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 研究室に由月と田島を残し、岩屋と日夏は自衛隊駐屯地を目指す。

途中に見える景色には焼け崩れた家屋が連なる。きっと、混乱の最中に出火したのだろう。

既に燃え尽きているが、火災によってより多くの死者が出た事が想像される。

そんな光景を視界の端に、道のりは約50分程で駐屯地の外装が見え出す。

過度な期待は禁物だが、2人の鼓動は徐々に高鳴る。

そして、正門前に車を止めると、揃って息を飲むのだ。



「見てください、岩屋サン……」


「ぁ、あぁ、見てる。見えてるさ……」



 車のフロントガラスいっぱいに見える駐屯地には国旗が掲げられ、風に棚引く様は力強くも凛々しい。



「人が、いる……」



 正門には有刺鉄線で厳重なバリケードが施され、死者の侵入を防ぐ準備が成されている。

そして、入り口前にシルバーのワンボックスが現れた事に、幾人もの自衛隊員が集結する。



「車から降りなさい」



 拡声器で指示されると、岩屋と日夏は怖ず怖ずと車を降りる。

四方八方から狙撃できる準備も万端。隊員達は銃口を突き出し、2人に迫る。


「だ、大丈夫でしょうか……」

「大丈夫、だろ? まさか人間の化け物の集いじゃねぇだろし……」


 隊員等は、条件反射で両手を上げる2人の着衣と持ち物を確認。

飴やチョコレートの類がポケットにあるばかりで危険な物は無いが、車内を見回れば後部座席からはライフルが二丁見つかる。


「コレは?」

「そ、それはですね……この子が護身用に拾った物で、その……

弾は入って無いでしょ、殆ど鈍器ですよ、鈍器!」


 確かに弾倉は空っぽだ。脅威は低いと見做せば、隊員達は警戒を解く。


「見た所、キミ達は正常な生存者のようだ。驚かせてしまってすまないね」

「そんな事はありません! 何せ、私どもは正常ですから! そこら辺はお約束します!

それでぇ、早速ですが、ここは避難所ですかっ?」

「まだその準備は整っていない。キミ達は何処から来た?」

「C市です! いやぁ、遠かった!」

「何故ここへ? 誰かから聞いたのか?」

「いいえ! こうゆう所なら もしかしたらってだけで!

中は安全なんですよね? 避難させて貰えますよね!?」


 元は営業職の岩屋は手揉みをして交渉。

隊員等は顔を見合わせ、決めかねた様子。


「取り敢えず中へ。そうゆう事は上の者が決めますから」

「上の者?」

「ここは限られた生存者のみで構成されていますが、組織として成立しています」


 車はその儘に、隊員の案内を受けて正門を潜る。

広い敷地内は一度は荒れたのだろうが、少しずつ片付けられている。居心地は良さそうだ。

キョロキョロと周囲を見回す2人に、隊員の1人が言う。


「初日の混乱で……どんなものかはキミ達にも想像が出来るだろう」

「ゾンビ、ですか?」

「ああ。眠る者や自殺・暴動を起こす者も現れて、ここも一時は陥落しかかった。

だが、界隈の出張所から生存している隊員を集結させる事に成功して、何とか持ち直した」


 全てが崩壊する前に最後の砦を死守。

一部を守る為、他所の地域を切り離す判断は正しかったのか、その為に犠牲になった者は多くあったに違いないから、日夏は苦しげに俯く。


「避難勧告は……出さなかったんですか……?」

「避難勧告? そんな時間があったと思うかい?

あれは予想もしない突然の出来事で、仲間の多くは自殺し、眠りに着く者も後を絶たなかった。

混乱の中でも唯一意識と理性を保った一部の隊員がここを守り通し、ここまで復興させたんだ」

「じゃぁどうしてっ、

どうして避難できる場所があるって、直ぐに知らせてくれなかったんですかっ?」

「見ての通り、まだ人を受け入れられる状態じゃない」

「これで充分ですよ! 化け物に囲まれて身動き取れないでいるよりは余っ程良い!!」

「生存者がどれだけ残っているのか、その検討もつかない内に受け入れる事は出来ない。

衛生的な環境を維持する為、避難者を詰め込む訳にもいかない。

基準を超える事にでもなれば、追い返す事にもなりかねないんだ」

「追い返す、って……」

「警戒すべきは蘇えりの者だけでは無いんだよ。

正常な生存者と、そうでない者の区別をどうつけるのか、それすらも分かっていない。

最大限を保障できる環境を整えるまで、我々も無闇な行動は取れないんだ」



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