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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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 一言で言えば、日夏は由月に惚れている。

何処にいようと危険なら、確信の持てない旅に出るよりも好きな女と一緒にいたいと言う恋愛感情。それが叶うなら、死者の観察にもめげずに立ち向かおうと思うのだ。

然し、それは叶わぬ夢。

否応無しにもこの研究室を出て行かなければならないとなると、不安が隠せない。


 岩屋にしろ、自衛隊が避難所として機能しているならまだしも、そうでも無ければ又も行き場を無くしてしまう。そんな予測があるからこそ、研究室に居ついてしまう訳だ。

行き詰り、揃って項垂れる情けない2人の背に目を側み、由月は溜息を零す。


「お困りで?」

「ハァ、この先に希望が持てなくてねぇ……」

「そんな物、捨ててしまえば宜しいのに」

「えぇ?」

「曖昧な展望に縋るのは合理的ではありません。

今のような状況ならば、明確な限りを照らし合わせて結論を出すべきだと思います」

「もっと解かり易く言ってくれねぇかなぁ?」


 由月は2度目の溜息をつくと、椅子をクルリと回して2人と向かい合う。


「1つに、どうやら人員を欠いて身動きが取れないご様子。

ならば、その人員を獲得すべきでしょう」

「それが出来ればやってるっつの!」

「そうでしょうか?

置き去りにしてしまった仲間の1人が生存しているか否か、確認はされたのでしょうか?

生きていると思うなら、合流する手筈を整えるべきです」

「うぅ……そうだな、それは言えてる……」

「2つ、自衛隊駐屯地でしたら、ここから然程遠くはありません。

1度に事を済ませる認識を改め、まずは周囲の様子を窺う選択をお勧めします」

「でも、ここを出たら僕達は……」

「用が足りるまで何度でも ご帰還なさったら宜しいのでは?」

「良いのか!?」

「やむ負えません」


 戻る場所があるなら話は早い。

先ずは、これ迄は知る事を恐れていた統也の生存を確認するとしよう。

岩屋は日夏の肩を叩く。『お前に任せた!』と言いたいらしい。

結局、都合の悪い事は人に押し付ける岩屋に日夏は携帯電話を握らされ、固唾を飲み込む。


「か、かけますっ、」



 Tururururu……



 手元で携帯電話が鳴る。

震える指先を伸ばし、画面に触れると応答。

受話器からは安否を気遣う声が聞こえる。



「も、もしもし!? 僕です、日夏です!」


「……」


「オイ、どうしたよ? オイ! 応答しろよ! 水原君!?」


「……て……、」


「何!? 何ですか!?」


「た、す、……け、」


「「!?」」


「グァアァアァアァアァ!!」



 受話器から聞こえる淀んだ声に、日夏は携帯電話を放り出す。



「うわぁ!! あぁ!! ば、化け物だ!! 化け物の声が!!」



 言わずもがな、床に落ちた携帯電話からは獣の様な唸り声と、ベチャベチャとだらしない咀嚼音が聞こえる。

岩屋は携帯電話を拾い上げると、通話を遮断する。


「水原、君……」

「う、ぅ、うぁあぁ……と、統也サンが……そんな……、」


 受話器越しに聞こえた声は苦痛に歪み、言葉は『助けて』と呟いていた様に思う。

その場で何が起こったのかは考える迄も無い。

2人の頭の中には、最後に見た統也の姿が蘇える。

自責の念に日夏は泣き出し、両手で頭を抱えて蹲る。


「うあぁあぁあぁ!! 統也サンが死んだ!! 化け物に殺された!!

僕の所為だぁ!! 僕が、僕が統也サンを1人で行かせたから!!

1人で何て無理だって、そんなの解かりきってたのにぃ!! うわぁあぁあぁ!!」

「な、何だよッ、置いてった俺の所為だって言いたいのか!?

ァ、アイツが、アイツが決めた事だろ! こうなる事くらい解かってた筈だ!

解かってて1人で行った! 俺達にはどうする事も出来なかった! そうだろぉが!!」

「でも、でもぉ!」

「うるさい! 黙れ! 泣くな! そうゆうのムカつくんだよ! イライラすんだよ!!」


 岩屋は携帯電話を日夏に押し返す。



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