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「そ、それ……弾、入ってるのか……?」
「入ってるよ。使い方も解かってる」
「ッッ……ク、クソッ……、」
人質を取られては太刀打ち出来ない。雅之はライフルを仁美に投げ返す。
仁美はライフルを取り戻すと部屋から逃げ出すが、統也の銃口は弘武に向けられた儘、下ろされる事が無い。
「返しただろ! お前も銃を下ろせよ!」
「……」
「まさか、騙したのかッ?」
「そうじゃない」
「何が、そうじゃないんだよ!! この嘘つきヤロぉ!!」
「何が嘘つきよ!? アンタだって嘘ついて、私達を騙したじゃないの!
統也クン、早く行こ! そんなヤツ放って、早く!!」
長居は禁物だ。
形勢が優位である内に この場を離れたい仁美は、地団駄を踏んで統也を急かす。
だが、統也は動かず雅之を見つめる。
「雅之、お前の気持ちは良く解かる」
「何だよ、それッ、」
「ここで全部終わらせて、一緒に行こう?」
「は、ぁ……?」
バイクは2人乗り。もう1人を乗せるスペースは無い。
それで無くとも雅之は発狂している。同行させるには危険すぎる存在だ。
然し、統也は父親と同じ症状を見せる雅之を見捨てる事が出来ない。
「弟の為にした事なんだろ? 全部」
「……ッ、」
「弟が元気で生きてたら、こんな事しなかっただろ?」
「……ゎ、分かんねぇ、分かんねぇって……だって、楽しかったんだ……
弘武の為って思いながら、でも、やっぱ楽しかったから……
俺、頭おかしくなってんだ……今だって、殺したくて堪んねぇ……、、」
「雅之……」
(何故、発狂なんて現象が現れるのか……
僅かな理性に苛まれて、傷ついて、苦しんで……
それにも堪えられなくなれば、もっと壊れていく……)
雅之は両膝から床に落ちると、両手を合わせて統也を拝む。
「頼む!! 殺さないでくれ!! 謝るから、全部謝るから!!
弘武は俺の大事な弟なんだ!! もうこんな事しない!! だから見逃してくれ!!」
最終的には土下座。
これ程までに雅之は弘武を思い、唯一残された家族に依存している。
発狂者となった今でも、失う事は堪えられない。
統也は銃を下ろす。
「雅之、お前はずっとここに留まるつもりなのか?」
「弘武を置いてけねぇよ……そんな事できねぇよ……」
「……そうか、」
統也は腰を屈め、雅之に携帯電話を差し出す。
「これ、やるよ」
「ぇ……?」
「バッテリーが どれだけ持つか分からない。
でも、それまでに、もしここを出る気になったら、この番号に連絡してくれ。
必ず迎えに来るから」
「お前……」
統也の手元には父親の携帯電話がある。
まだ端末は残っているとは言え、万一を考えれば失うには手痛い文明の利器。
それでも、雅之に託さずにはいられない。
雅之は泣き崩れる。
まだ心に残る『人』としての感情が、そうさせるのだろう。
派出所を後に、バイクは再びS県に向かう。
「あのさぁ、アンタ、バカすぎるでしょぉ!?」
「えぇ!? 何がですかぁ!?」
「スマホ! 携帯だって!」
「あぁ、あれぇ……別に、俺には父サンのがあるんで!」
「そうだけどぉ…… バーカ!」
「ハハハ……、」
バイクに乗りながらの会話は声を張り上げなければ聞こえない。
馬鹿デカイ声で仁美に叱責され、統也は苦笑するばかりだ。
雖も、仁美の顔には笑みが浮かんでいる。
「ま。そうゆうの、嫌いじゃ無いけどね」
ポツリと呟き、統也の背に頬を寄せる。
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