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「まさか、死――」
「弘武は死んで何かねぇぞ!
ケガして痛がってて、知らないヤツらがいるから怖がってるだけだ!
ホラ見ろ! 顔色だってアイツらゾンビとは違う! 良ぉく見てみろ!」
雅之は弟の生存を強く訴えるが、薄暗い室内では顔色なぞ窺えたものでは無い。
「雅之、違う……もう死んでる……もうその子は死んでるんだ……」
「黙れよ! お前に何が分かる! イイからこの部屋に入れ! そこの女も!」
「ひッ、ひィ、」
銃口を向けられては逆らう事も出来ない。
仁美は這い蹲って雅之の指示に従う。
「弘武は腹空かせてんだ! 人間2匹も食えば、またイイコになる!」
「お前、ずっとそうやって……」
「ゾンビだらけになって……あっちこっちで襲われて……
俺達が やっとの思いでこの派出所に逃げ込むと、
さっきは平気な顔して俺らを見捨てたヤツらが、お互い助け合おうって、
だから避難させてくれって、都合イイ事言って勝手に上がり込んで来るようになった……別にイイさ、それくらい!
でも、弘武がケガしてるって分かると、皆して『殺せ』って!
感染してるかもとか、苦しそうだから死なせてやった方がイイとか!
自分で隠れ家も用意できねぇヤツらが勝手な事ばっか言うんだ!! もぉ煩くて……
だから全員 殺してやったよ! だって煩せぇんだもん! しょうがねぇよ!!」
「雅之、」
「……まぁイイか、そんな事。今更どーにもなりゃしねぇや。
ここが安全だってなりゃ、お前らみてぇなバカがノコノコやって来る。
餌にされるとも思わねぇで、ギャハハハハハ!!」
仁美が部屋の前まで来ると雅之は容赦なく蹴り飛ばし、ベットの方へと転がす。
「グァアァアァァァ!!」
「きゃぁあぁ!!」
「平家サン!!」
弘武は仁美に手を伸ばすが、ギリギリの距離で触れる事が出来ない。
雅之は舌打ちし、続いて統也を部屋に追いやる。
「テメェも入れ!」
「分かったから、だから銃を下ろせ……」
「冷静こいてんじゃねぇぞ、ヘタレぇ。ホラ、早く歩け!
オイ、女! それじゃぁ弘武の手が届かねぇだろが! もっと近づけ!」
弘武の腕は幾分か自由に動くよう、ロープの長さが調節されている。
一掴みされれば忽ち引っ張り倒され、そのまま齧りつかれるだろう。
仁美は涙交じりに統也を睨み上げる。
「ァ、アンタが妙な仏心だすから悪いんだってのッ、」
「大丈夫……平家サン、大丈夫だから……」
「はぁ? 何が大丈夫だ?
なに言ったって冴えねぇぞ、ヘタレ! 早く齧られちまえ!
そんで死ぬまでギャァギャァ喚け! ギャハハハハ!」
雅之は銃口を前に突き出す。
トリガーにも指がかけられ、いつでも射殺できる準備が整っている。
「――雅之、その銃は使えないよ」
「!?」
統也の言葉に雅之はギョッと顔を強張らせ、1歩を後ずさる。
然し、それは統也の虚勢と判断するのか、構える事をやめない。
「ぅ、嘘つけ! 弾の入ってねぇ銃なんてあるかよ!」
「弾は入ってるよ。でも、そのままじゃ使えない」
トリガーを引けば弾が出る、そんな安易な構造をした銃はそう作られていない。
利用者の安全の為、殆どの銃にセーフティーと呼ばれる安全装置が組み込まれている。雅之が構えるライフルのセーフティーは解除されていないのだ。
その儘では何度トリガーを引こうと弾は出ない。
銃の使用についてはレクチャーされ済みの仁美は光明を見る。
統也の言う『大丈夫』の意味が漸く解かった様だ。
「ク、クソ!!」
雅之は力任せにトリガーを引く。
然し、言われた通り弾は出ないから、抱え込んでガチャガチャといじり出す。
その隙に、統也は背中から もう一丁のハンドガンを取り出し、弘武の頭部に銃口を向ける。
「ぉ、お前、まだ持ってたのか!!」
統也が日夏から預かった銃は全部で二丁。
ハンドガンは使わずに腰ベルトに挟んで持っていたのだ。
「雅之、その銃を彼女に返すんだ。でなきゃ、俺は弟サンを撃つよ」
「……ひ、弘武は死なねぇよッ、だって、もう……」
「お前も知ってるんだろ? コイツらは頭を砕けば完全に止まる」
「!!」
これまで無事に弘武の食料を調達していると言う事は、食べ残しの処理についても雅之は熟知している。




