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「ちょ、ま、まさか……行く気、とか……?」
「念の為」
「折角 逃げて来たのに、わざわざ危険な場所に行く何て、
あんなのほっときゃイイのに、バカじゃないの!?」
「分かってます。バイクに乗せる事は出来ない。でも、生存者なら見過ごせない」
「し、信じらんない!」
「ソレ、使い方 分かりますか?」
「だから! 分かるわけ無いっしょぉ!?」
「ココ、安全装置です。外して引き金を引けば弾が出ます。
残り少ないから大事に使ってください。
使い方は慣れれば何て事ないんですが、取り敢えず、打ちたい方向に向って真っ直ぐ構える。
衝撃が強いから両手で持たないと体勢を崩します。良いですね?
何かおかしいと思ったら、直ぐに逃げてください」
「と、統也クンはどうすんの?」
「俺は俺で何とかします」
ライフルの使用を仁美に伝えると、統也は深呼吸を1つ。気持ちを静め、歩き出す。
互いの距離は40メートル程。
統也が1人で戻って来る様子に、男は肩を撫で下ろす。
(ただの生存者に見えるんだけどな……)
統也は声が聞こえる10メートル余りの位置で立ち止まる。
(学生服……)
「……生存者、ですね?」
年端は統也と変わらない。
随分と憔悴した面持ちだが、統也が話しかけると表情を明るくする。
「ぉ、俺、藤山雅之! 18才! 怪しい者じゃない!
弟がケガしてて……何でもイイから手当て出来る物が欲しいんだ!」
「怪我?」
「そう! その代わりに、これ! 飴だけど、これやるから!」
まるで子供の物々交換。
然し、今の状況では飴玉1つでも貴重な物資だ。
統也は慎重に思料する。
(正常に見える。狂ってるようにも、嘘をついているようにも見えない。……でも、)
頭脳戦。統也は溜息を零し、ヘルメットを取る。
(疑ってもキリが無い、これなら死者を相手にした方が楽かも)
「飴は、良いよ。貰えない。それより、怪我って言うのは?」
「化け物に襲われて、肩を齧られたんだ。
出血は止まったんだけど、傷口は塞がらなくってさ……」
「分かった。ハンカチとか、そんな物しか無いけど、それで良ければ」
「ぁ、ありがとう! それで充分だ!」
「ちょっと待って。連れも何か持っているかも知れないから聞いて来るよ」
「そうしてくれ!
あぁでも、弟を1人にしておくのが心配で、早く帰ってやりたいんだけど……」
そう言うと、雅之は指を指す。
「あそこ、派出所があるだろ? 今、あそこに隠れて生活してるんだ」
道路脇の芝生の斜面を降りると、側道が走っている。
その通り沿い、丁度ここから見下せる位置に派出所がある。
「少し戻ると細い道があって、そっからならバイクでも下って来れる。
悪いんだけど、届けて貰えねぇかな?」
「……弟サンは幾つ?」
「8才。年離れてるだろ? 両親とも死んじまったからさ、今は俺が父親代わりだ。
目ぇ覚まして俺がいなかったら、アイツ、すごく怖がる」
「……そうか。分かったよ。後から向かう」
「ホントか!? ホント、頼んだ! 助かるよ、ホントに!」
警戒心は拭えない。
然し、この話が本当なら小さな子を1人で残しておくのは心配だ。
雅之は芝生の斜面を駆け下り、一目散に派出所へと戻って行く。
その様子に事勿れと一息つく仁美は重いライフルを肩にかけ、バイクを押して統也の元へ。
「ハァ、どうだったぁ?」
「手当て出来る物を譲って欲しいそうです」
「はぁ? そんな、こっちだって恵まれてるワケじゃないんだけどッ?」
「ハンカチや布の類で良いらしいです。平家サン、何か持ってませんか?」
「……あぁ、ハイハイ。分かりましたよ。ハンカチとミニタオルなら持ってるけど?
後、ポケットティッシュ」
愚図れば愚図った分時間を消費してしまう。
仁美は素直に私物を取り出し、統也に預ける。
「で? 相手は何処?」
「あそこ。派出所に戻りました。
小さい弟サンを残しているそうで、これから届けに行きます」
「はぁ!? あぁもぉ、何でそこまでしてやるかなぁ……ホント、信じらんない!」
「ハハハ。すみません。平家サンはここに残ってくれて良いですよ。
俺、ひとっ走り行ってきますから」
「ちょっと待ってって! 行く、行くよぉ、こんなトコで何かあっても嫌だからぁ、」
ライフル一丁を預けられても、緊急時に1人で逃げ切れる自信が無い。
それなら統也に着いて行動した方がマシだと思う仁美だ。




