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「由月サンはどう考えているんですか!? 僕達は これからどうすれば良いんですか!?」
「私の考えはあのページに書いた事が全て。
それをどう捉えてどう動くかは、私の領域に無い事」
「そんな……」
「人の命を預かる事は出来ません」
由月に出来る事があるとすれば、情報を集積し、多くの判断材料を提示する事。
命に関わる選択まで担えないのは、誰にでも言える事だろう。
岩屋は溜息を零す。
「で……そうゆう大川サンは、これからどうするの?
ずっとここでソンビ眺めて研究するわけか? 餓死するまで」
「その未来予測が最も濃厚です」
天候まで頭に入れている由月だ。自らの顛末も予測済み。
自分に出来る限りの事をする。何かが分かれば発信する。
由月の行動は、生き延びる者達の為に向けられている。
「逃げても無駄なら、逃げる事に意味は無いでしょう。
私はここに留まり、研究者として合理的に生きる」
由月の言葉には諦観も絶望も無い。
だからこそ、『生き延びたければ頭を使え』と掲示板に綴れたのだ。
*
昨晩の雨が嘘の様な晴天の中、統也は仁美をバイクの後ろに乗せ、ひた走る。
(昨日は横になって寝る事も出来なかったから、平家サンは疲れが取れないと言っていた。
もう少しスピードを出したいけど、振り落とす事にでもなったら大変だ)
秋の気候に日照時間は少しずつ短くなっている。
出来るだけ早くS県に入りたいが、休憩も小まめに取らなければならないから、今日中の到着は難しいか知れない。
(岩屋サン達は無事だろうか……田島の事も心配だ。
連絡を入れたいけど、向こうがどうゆう状況か分からないからな……
ヤツらとの応戦中に電話なんか鳴らしても困るだろうし、
ネットの掲示板なら向こうの都合で見られると思ったけど、
敵はアイツらだけじゃないと分かった以上、下手な事は書き込めない。
スマホやネットが使えないだけで、どんなけ不便だよ、)
気軽にメールや電話が出来た数日前が懐かしい。
道には未だ乾かない血糊や、頭を砕かれた遺体も点々と見られるから、今は安全運転に集中しよう。
すると、暫く走った所で、道の端に人影を見つける。
「平家サン、スピードを上げます! しっかり掴まって!」
「ゎ、分かってるってッ、」
死者であれ、人間の化け物であれ、無駄な戦闘を回避するにはスピードで引き離すのが1番。
仁美が統也の腰にギュッと掴まると同時、スピードメーターは70キロに加速。
視界の端に入る人影は、一瞬の内に通り過ぎる。
過ぎ去ったバイクを追い駆ける様に、道路の中心にまで駆け出し、手を振る姿がバックミラーに見える。
(男か、ただの生存者なら……)
キッ、、――キキキィィィィ!!
急ブレーキ。
後輪を滑らせ、前輪を方向転換させてバイクを止める。
「な、何ぃ!? 今度は何ぃ!?」
「シッ。……大丈夫、アイツらじゃありません」
統也はヘルメットのシールドを上げ、目を凝らして道路に佇む男を見る。
相手は未だ手を振り続けている。
「ね、ねぇ、行った方が良くない……?」
「行くって、どっちにです?」
「どっちって、こっちはバイクで2人乗り何だから、向こうが何だって助けてやれないじゃん、
それに、いきなり暴れ出したらヤバイんだから、このまま逃げよ!」
ただの生存者か、発狂した人間の化け物か、見極めは付かない。
自分の父親であっても その異変を見抜けなかったのだから、仁美の言い分は最もだ。
見なかった事にして先へ進んでも緊急避難。
然し、実態を確認せずに無視するのは、統也の良心が呵責する所。
腰にしがみついたまま離れない仁美を、統也は苦笑して窘める。
「平家サン、手、離して貰っても良いですか?」
「あ! あぁ、ごめん、」
「バイクの運転は出来ますか?」
「は!? 出来るわけないじゃんッ、こんなデカイの!」
「じゃぁ、コレ持って。ここで待っててください」
バイクを降りるなり差し出されるのは、アサルトライフル。
勢いのまま受け取る仁美だが、ライフルの重みに鳥肌を立てる。




