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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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 由月は望遠鏡を覗き込み、死者達の様子をメモに取る。



「ある学者が発表した興味深い考察があります。

それは、死者が蘇えり、ゾンビとなって活動をした場合の人類の生存率です」


「「!」」



 本来なら『荒唐無稽』と、その学者を笑い飛ばす所だが、この状況に於いては有り難い研究をしていてくれたものだ。

日夏は喉を鳴らす。


「そ、それで!? その学者サンは何て!?」


 由月は黒目ばかりを日夏に向け、抑揚の無い相変わらずな口調で答える。



「生存率0%」



 一瞬にして空気が凍りつく。


「説明は必要ですか?」

「そ、そうしてくれよ、」

「解かりました」


 由月は椅子の背に深く凭れ、作業を一時休止。そして、言及。


「人類の驚異的な進歩の前に、本来なら死者の活動など取るに足りません。

アレには生前の知能は無く、行動も鈍い。

仲間同士で意思疎通する事も無く、ただ闇雲に貪る。

あらゆる活動体の中で、最も脆弱な存在」


 死者は脆弱な存在。

これには異論を唱えたくもなるが、考えても見ればだ、

死者は存在や習性が異常なのであって超能力を備えている訳では無い。

多くは肉体も損壊し、風に吹かれる柳の様だ。

生存者が協力し、圧倒的に受け入れ難い死者達の容姿に目を瞑る事が出来れば撃退できる。

ただ、眠る者や自殺する者が突発的に現れる事が、それ等を難しくしているのだ。



「――脆弱だからこそ、人類は侮る」


「ど、どうゆう事だよ?」



 人が編み出した科学は多くを生産し、多くを滅する事も可能にしている。

バイオテクノロジーを始め、核兵器が筆頭に上がるだろう。

それ等を行使すれば、死者の軍勢が猛攻撃を仕かけて来たとしても、太刀打ちする技術や能力は余りあって然るべき。然し、由月はそれこそが人類の滅亡を意味すると言う。


「人は、不明慮な物を研究する性を持つ」


「キミらくらいだろう!」


「新たな物を発明するには、あらゆる分野で研究を必要とします。

医療や薬、アナタ方が乗って来た車も、お手元の携帯電話も、そうした恩恵の1つ。

地球の変調は、温暖化や異常気象と言う形でずっと以前に始まり、

その影響を受けた者も少しずつ現れていた。

然し、より大きな機関はそれ等を公表する事を選択せず、研究する事を選びました」


「え?」


「地球の変調によって発生する奇妙な現象……

夏病に自殺・凶悪犯罪、これらを拡大させない為、研究し、その結果に基づいて対策を練る」


「そ、それで!?」


「現状を見れば お分かりになるでしょう? 間に合わなかったと。

だから、『生存率はゼロ』だと学者は結論づけました。

人類の欠点は、予防・対策・研究を同時進行させられない事。

全ては問題が発生してから考え、対策を考えている間に現状は悪化、進行し、蔓延する。

進歩し続けようとする人間の性が、最悪のケースを作り上げる」


 いざと言う時のパンデミックを防ぐには、情報の共有と正しい認識・行動力が望まれる。

最も、常識的な判断の上では計り切れない事もあるだろう。

それが今における現実なのだが、平和な世界で生きる民間人に速やかな理解を求めるのは困難。

心の安定を図る正常性バイアスが裏目に働いてしまうのが、その理由。

これ等が人の性である以上、そこを否定する事は出来ない。

だからこそ、由月は『そうは思わない』と呈している。


 然し、死者を捕まえて研究するよりも率直に駆除すれば良かったのだと、由月は言いたい。

それさえ可能であったら、生存者を減らす事は無く、少なからずの避難所の確立は適ったかも知れないのだと。


「アンタの話は結果論だろ! だから駄目だった何て話、どうでも良いんだよ!」

「やはり認識に相違があるようです。私の話は結果論では無く、経過論です」

「何だよ、それ!?」


 岩屋はガシャガシャと頭を掻き、苛立ちは絶頂。

だが、日夏は息を飲んで立ち上がる。



「研究は進んでる!! そうゆう事ですか!?」



 由月は現状に至る過程を示唆したに過ぎない。

これからの話は、また別物なのだ。



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