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――4日目。
朝には雨も上がり、太陽は眩しい陽射しで地上を照りつける。
これ迄は早朝から動いていた岩屋と日夏だが、統也と言う戦力を欠いた今、次の目的地に向う意欲も持てずに研究室に居座っている。
由月は忙しない。
田島に水分補給をさせたり、望遠鏡で外の様子を伺い、気温計を確認したりと手を休める事が無い。
「キミぃ、ちょっとは座りなさいよ。そんなんじゃ体が持たないぞ?」
「これが私の日常なので心配は無用です」
「あ、そ、」
岩屋はゴロリとソファーに寝転がる。
日夏は持ち込んだ食料で朝食を済ませると、固定されている観測用の望遠鏡を指さす。
「これ、見ても良いですか?」
「構いませんが、自己責任で」
「?」
何と無く頷き、日夏は望遠鏡の接眼レンズを覗き込む。
「っ、うあぁあぁあ!!」
「何だ!? ゾンビか!?」
叫ぶ日夏は、腰を抜かして後ずさる。
岩屋は飛び起きると、日夏の見ていた望遠鏡を恐る恐る覗く。
「ぁ、ありゃ……金網の中に、ゾンビが閉じ込められてる、のか……?」
植物の生態を調べる為、大学の私有林は金網によってブロック分けされている。
その一角に何体もの死者が閉じ込められ、そこに望遠鏡のピントが合わせられているから、
日夏が驚くのも無理は無い。
「由月サンっ、、な、何であんなモノ見ているんですか!?」
「観測の為です」
「観測って……え?」
「まだ4日目なので断言は出来ませんが、アレは食欲のみで構成されているようで、
勿論、それは空腹があっての事ではありません。
死によって、多くの脳細胞が消滅していますから。
唯一残された原始的な欲求である【食べる】と言う行為を繰り返すのだと、
私は仮定しています。
その為、アレを強制的に停止させるには、司令塔である脳……つまり、頭部を破壊する事。
そして、生きた人間を捕食できなくなると、3日目には共食いを始める」
「共食い、」
実に原始的な行動だ。
2人が望遠鏡を覗いた時には、まさにその共食いが展開されていた所。
見るに堪えないないグロテスクな情景から目を反らし、岩屋は頭を振りながらソファーに倒れ込む。
「大した女だな、アンタ……ゾンビ飼おう何て発想、異常としか言いようがないぞ、」
「飼育している訳ではありません。
急激な変化が起きた時、私の他にも生存者は多くありました。
混乱は起こったけれど、でも皆、この現象を地域の一過性のものだと判断した。
だから避難を選ばずに、眠った者・蘇えった者を分類し、観察を始めたんです。
アレはその名残り」
流石、科学者・研究者と絶賛する前に、死者達を観察対象に選ぶ神経が理解できない。
由月を見る目も変わってしまいそうだ。日夏は胸を押さえながら口籠もって問う。
「ゅ、由月、サンも……?」
由月も その研究者と同じ行動を取ったのかが気にかかる。
「私の考察は端から皆とは違った。
変調は一時的では無く、徐々に拡大する。眠るにしろ、死ぬにしろ、蘇えるにしろ。
観察途中で眠りの影響を発生させた者の殆どが、アレの餌食になりました。
私が無事だったのは、1人でこの研究室に籠もり続けた結果です」
「そうかい、まぁキミが少しはマシな考えを持ってたって事は分かったよ」
「マシ?」
由月が切り返すのは初めてだ。
岩屋は受けて立つとも言う様に言い返す。
「だってそうだろ? ソンビ捕まえて研究しよう何て、どうかしてるじゃないか」
「私はそうは思いません」
「あぁ? でもキミは参加しなかったんだろ? ここに閉じ籠もってたんだろ?
それじゃぁ おかしいじゃないか」
鬼の首を取ったかの様に、岩屋は由月を嘲笑する。
「認識の相違があるようです。
私がそうは思わないと言ったのは、経過観察をする行動の発端であって、
その有効性の是非ではありません」
「ぅ、ん?」
何やらややこしい主張だ。2人は首を傾げる。




