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父親はライフルと携帯電話を纏め、統也に押し付ける。
行きと同様、銃を乱発して非常階段までを切り抜ければ、外に出られるだろう。
「ャ、ヤダよ、父サン、一緒にっ、」
「統也、お前は強い子に育った。父サン、嬉しいよ……」
先に進むよう後押しする父親が、肩をトン……と突き放せば、その拍子に統也の目から涙が零れる。そうして自分は壁際へと後ずさるのだ。
「お前なら生き延びる事が出来る……信じているから、」
「父サン……」
「母サンを頼んだぞ」
「ぁ……」
父親は窓ガラスを開けると、最後に統也を振り返る。
息子の姿を目に焼きつけ、満足げに笑えば、急ぐ様に下へと落ちて行く。
*
(オフィスの15階を目指す前に、父サンが俺に託してくれた物がある)
『統也、念の為、先にコレを渡して置こう』
『バイクのキー?』
『そうだ。このオフィスの地下駐車場に父サンのバイクがある。
家でいじると母サンに怒られるから、ここに持って来ておいたんだ。
お前、欲しがっていたろ?』
『でも、卒業するまではって……』
『ああ。少し早いが、今日からお前の物だ』
(小さい頃はラジコン。俺がデカくなってからはバイク)
『お前の為に欠かさず整備をしていた。きっと役に立つ』
(いつか2人でツーリングへ行こうと、約束していた)
社長室前の廊下さえ切り抜けられれば、重い防火戸が死者の追跡を阻んでくれる。
非常階段から地下駐車場に降り、父親のバイクを譲り受け、ヘルメットを被ると後ろに仁美を乗せる。これでY市へ向かう足は獲得だ。
「平家サン、しっかり掴まって。良いですね?」
「ゎ、分かってるって、」
バイクのエンジンが唸る。
「行きます」
地下駐車場を出れば、頭上に広がる空。雲1つ無く、濁りけの無い青。
眩しい陽射しと残暑の熱気に仁美は目を瞑る。
(父サンは最初から決めていたんだ。俺と一緒にあそこを出る事は無いと。
もう自分が自分で無くなっている事、それでも俺の父親であろうとしてくれた事、
俺を殺さない為に……)
『お前なら生き延びる事が出来る……信じているから』
(あの高さから落ちたら蘇える事は無いだろう。
父サンは、本当の眠りについたんだ……)
『母サンを頼んだぞ』
(言えなかった……)
「……ごめん」
「え!? 何!?」
「何でもありません! 蹴散らします!」
加速。耳にはゴォォォォ…と風の声。片手にハンドル。片手にライフル。
統也は死者達の群れを切り裂く様にバイクで突っ込み、ライフルを振り回す。
「こんな所で死んでたまるか!!」
生き残る事が、失われた多くの命に報いる事。
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