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「と、父サン、落ち着いて……銃を、置いて……」
「父サンはな、解放されたんだ!! 全てから!!
あらゆる感覚から!! 解き放たれて自由になったんだ!!」
「父サン、しっかりしてよっ、それはきっと勘違いだっ、父サンは優しくて、」
「黙れ!! 黙れと言っただろ!!
良いか、統也、父サンは忙しいんだ!! 日頃から そう言って聞かせてるだろ!!
母サンの言う事を聞けって、散々 言ってるだろ!! それとも、あの女がバカなのか!?
ガキ1人 調教できないバカ女なのか!?」
「な、なに言ってんだよ、父サン、」
「忙しいんだよ! 父サンはぁ!!
ここで、まだやらなきゃならない事が残っているんだ!!」
「意味、解かんないよ、」
今すべきは、ここから脱出する事。然し、父親には他にすべき事があると言う。
「……異変が起きた時、丁度 来たエレベーターに乗った……
何だろうな……丁度良い大きさだ、安心する閉塞感だ……
だが、空っぽだ……何か詰め込みたくなった、無性に、無性に!!」
父親は『危険だからエレベーターを止めた』と言っていたが、使えない理由は他にある。
「エレベーターを降りたら、逃げる部下、倒れている部下、死んでいる部下……
人を喰らっている部下がいた。皆、自由だった。自由……自由なんだ……
その自由を、空っぽのエレベーターに詰め込む事にした。
だから父サンはな、沢山殺した。生き返ったら、それでも何度でも殺した。
アレは頭を砕くと動かなくなると気づいてからは早かった。
そうしてエレベーターに押し込んで……後もう少しだ。もう少しでいっぱいになる。
なぁ、平家君」
「ぇ、え!?」
「キミは仕事は平凡だが、自ら死を選ぼうと言うのだから、中身は優秀だ。
生まれてきた以上は、死ななければならない事が解かっているんだろ?
無理も無い。キミが生きてみた所で何の価値も無い。
さぁ、私が望みを叶えてあげよう」
「ゎ、私はっ、殺されたくないから、だから死のうって……」
「やめなさい。女性は多くを語るもんじゃない。
あの中に詰め込まれてみれば、つまらない枷は無くなり、キミの命は無事に終着する」
まさに発狂者。全く意を介さず、支離滅裂。
統也は仁美の前に立ちはだかる。
「父サン、やめてくれ!! 正気に戻ってくれよ!!」
「統也、どきなさい」
「嫌だ!」
「大丈夫、統也は最後だ。自由の祝いに、父サンは統也を殺そうと思う」
「父サン……、」
「考えたんだよ、2人で階段を登りながら。小さな頃の統也を思い出しながら。
可愛かったなぁ、統也。勿論、統也は今もで父サンの大事な息子だ。
そんな愛してやまない息子をこの手で殺すのは、どんな気持ちだろうか?
どれ程満たされるだろうか? 考えたら、もう我慢が出来なくなってしまった……」
『食べてしまいたいくらい可愛い』と言い換えるべきか、然し、発想が常軌を逸している。
仁美は撃たれまいとして、統也の背にしがみ付き、縮こまる。
さながらバリケード扱いの統也は両手を突き出し、必死に父親を制する。
「違う!! 父サンは、そんな人じゃない!!」
父親はライフルを構えた儘、1歩1歩と2人に歩み寄る。
「狂ってるんだ!! 地球が!!」
《地球の心音は変化し、我々人類はその変調を受け止めざる負えないだろう》
「俺達は地球の影響を受けてる!
世界がこうなってしまったのも全部、その影響の所為なんだ!
だから、それを取り除けば良い!!
生存者である俺達がどうしたら元の世界を取り戻せるのか、考えて、協力し合って……
俺達が殺し合ってちゃ駄目なんだ!! それこそ何の意味も無いんだ!!
俺達の命は、全てを取り戻す為にあるんだ!!」
銃口は統也の額に突きつけられ、トリガーを握る父親の指が静かに動かされる。
「それとも父サンは、ただ、俺を殺したいだけなのか……?」
「――」
逃げ道は無い。罪も消えない。
ならば、ここで父親の手にかかって死ぬのが最良の様にも思える。
すると、覚悟を決めた統也の嘆きに、父親の指先は止まる。
再び苦しげな表情に変わるとライフルは下ろされるのだ。
「うぅうぅ……、」
「父サン!」
手を伸ばせば、それは父親によって再び制される。
「ぃ、行きなさい、統也……父サンが、正常でいられる内に……
もう、どれだけ抑えられるか分からない……」
こうなっては守ってやる事は出来ない。この強い自制もそう長くは続かない。
だが、我が子を手にかけるなぞ、あってはならないのだ。




