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「あのですねっ、言ったから何ですか!? 言ったらそれで良いと思ってますか!?
下手したら俺達が死んでたんですよ! 自分には関係ないから誰が死んでも良いって、
関係無いの一言で片付けられるって言うなら、アナタの神経どうかしてますよ!!」
統也の怒声に女は言葉を失い、顔を伏る。
口では無責任な事を言っても、怖くてドアが開けられなかっただけだろう、そう察する父親は、統也を諌める。
「統也、もう良いだろう。こうして辿り着けた、平家君も無事だったんだから良かったよ」
女の胸元には平家仁美と書かれた名札が付いている。
手には統也の父親の携帯電話を握り、不貞腐れた面持ち。
憔悴した様子も見られるから、1人で過ごした3日間は仁美にとっても苦しいものだったのだ。
そんな仁美に強く言い過ぎたと改める統也は、頭を振って怒りを払い飛ばす。
ドアの外も少し落ち着いた様だ。
「それで……誰か、連絡はついたんですか?」
「! ……社長、コレ、お返しします、」
仁美はその携帯電話で身内や友人に連絡すると言っていたが、この様子では全て空振りに終わった様だ。
これには気の毒だったと同情する他無い。
統也は口調を和らげ、仁美に問う。
「まだ、死にたいですか?」
「……」
「一緒にここを出ましょう? いつまでもここにはいられない。そうでしょう?」
「……、」
『誰にも連絡がつかなければ死ぬ』とも言っていた仁美だが、今もこうして生きている。
統也が本当に現れるか高見の見物をしていただけなのか、それとも身の振り方を決め兼ていたのか、どちらかと言えば後者に思える。雖も、それを追及するつもりは無い。
返事が無いのを是として、次には父親を窺う。
「父サンも一緒に。ね? 会社は落ち着いたら戻れば良いじゃないか。
今は安全な場所を探して移動し続けよう? 知り合いが今、Y市に向かってるんだ。
そこにも自衛隊はあるし、もしかしたら救助準備も進んでいるかも知れない。
それに……この現象に詳しい人とも会えるかも知れないんだ。
分からないけど……でも、何もしないで留まるよりは ずっと、」
統也が言葉を行使して説得している間に、父親は額を抱えて項垂れる。
酷く具合が悪そうだ。
「うぅ、ううぅ……、」
「と、父サン……どうしたの? 具合が悪いの!? もしかして、眠いの!?」
「ぃゃ……違う、大丈夫だ……、」
統也が手を差し伸べるも父親はそれを制し、フラフラと歩いて壁に凭れる。
激しい呼吸の乱れが心身の異常を訴えている。目は血走り、口の両端には泡すら浮かぶ。
何事か状況が掴めない仁美は後ずさり、身を竦める。
「しゃ、社長、もしかして、感染、とか……」
「感染なんかしませんよ!」
「で、でも、何か、ヤバイ感じするっ」
「うッッ、、あぁあぁ……あぁ、クソ、クソ、クソ……ッッ、」
「父サン!? 父サン、しっかりして!」
統也が駆け寄ると、父親は力任せに突き飛ばし、有り余った力で壁を殴りつける。
ダン!!
「あぁあぁあぁあぁ!! 煩い!! 煩いぞ、統也!!
さっきからギャァギャァとぉ!! 喧しいんだぁあぁあぁ!!」
「「!?」」
「静かにしろ!! 静かに!! 鬱陶しいんだ!! お前は本当に鬱陶しい!!」
「と、父サン……?」
これ迄に見た事の無い父親の形相に統也は言葉を失い、腰を抜かす。
(ま、さ、か……)
『凶暴な人間ですっ、すごく凶暴な……怪物です!』
日夏の言葉が回想される。
まさか、死者と同等に警戒すべき人間の化け物が自分の父親だとでも言うのか、
否、そんな筈は無い。統也は頭を振って、自分の判断を否定する。
「ずっと!! ずっと我慢していたんだ! 壊したくて壊したくて! あぁでも、止めだ!!
あの化け物は非力でノロマで、獲物にするには飽き飽きしていた!
だが、まさか……部下を1人殺し損なっているとは……思いもしなかった!!」
「ぇ、何それ……しゃ、社長、嘘でしょ、」
「統也!! お前がここまで来るとは思わなかった……
お前や母サンだけは殺したくないからなぁ、帰らないでいてやったのに、
わざわざ……わざわざ!!」
父親はライフルを構え直すと、統也と仁美に交互に向けて威嚇する。
ただ、言葉で恫喝している訳では無い。
その目は至って本気で、いつでもトリガーを引ける準備が整っている。




