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統也は階段を上がりながら 前を進む父親の背を見つめ、小さな笑いを零す。
「ハハハ。やっぱり父サンはすごいや」
父親は訝しみ、統也を振り返る。
「父サンに会えて、俺、すごくホッとしてる。父サンといれば安心だって」
「……、」
「分かってるよ。気を緩めちゃいけないって事くらい。でも、父サンに会えて良かった」
「父サンもだよ」
「あの女の人を助けて、ここを無事に出られたら……俺、父サンに話したい事があるんだ」
「話?」
「……うん、」
伝えるべきはただ1つ。
(父サンは母サンの死を嘆くだろう。そうして、俺を憎むだろうか……
怖いけど、でも、父サンにだけは言いたい。父サンにだけは知って貰いたい。
俺が、どんな重い罪を犯して今を生きているのか……)
統也が何を言いたいでいるのか父親には見当もつかないが、物思いに耽った様子から、大事な話だとは想像できる。
「分かったよ」
*
登山さながら辿り着く15階、ここからが難関だ。
防火戸を開けた先の廊下は、死者で溢れているに違いない。
社長室までの一直線は ただでは進めないだろう。
「統也、ちゃんと着いて来るんだぞ」
「うん、」
さぁ、決戦だ。防火戸のドアノブを静かに捻り、勢い良く押し開ける。
「ギィィィャアァアァアァアァアァ!!」
「ウゥゥ、アァ、アァ、アアアアア……」
「ガァアァアァアァアァ!!」
生きた人間は大歓迎の死者の阿鼻叫喚。
女の気配を察知して廊下に吹き溜まっていたのだろうが、会社の従業員の総数と比較すれば まだまだ少ない。これも光明だ。
「父サン!!」
「統也、下がってなさい!!」
父親はライフルを構え、トリガーを引く。
一線炸裂の銃撃に、死者達の体は弾き飛ばされる。
しつこく起き上がる死者には、統也が鉄パイプで頭を殴打。止めを刺す。
下層階を徘徊する死者達が この騒ぎを聞きつける前に、社長室に避難しておきたい。
Tururururu……
死者との応戦の最中、統也の携帯電話が鳴る。着信は父親の携帯番号だ。
臨戦時に応答する余裕は無いのだが、そう言えば、立て籠り中の女との段取りを整えてない。
統也は慌てて電話に出る。
「丁度 良かった!」
「なに言ってんのよっ、ねぇ! 外がものスゴイ騒ぎなんだけど、ひょっとしてアンタ!?」
「言っただろ、高校生ナメんなって!
直ぐ側まで来てる! ドアを叩いたら開けて! 良いですね!?」
指示を出すなり通話を切る。
そして、父親の援護を受け、社長室の前に到着するや、ドアを叩く。
ドンドン! ドンドンドン!
「開けて!!」
然し、鍵は開かない。執拗に叩くも同じ事。
待っている時間なぞ無いと言うのに何をのんびりしているのか、
その間に、内階段を這い上がってやって来た死者達で数が増す。
「な、何で開けてくれないんだよ!?」
「統也、鍵!」
父親はライフルを下ろすと、懐から取り出したキーケースを統也に投げ渡す。
飛びついてキャッチするも、どれが社長室の鍵だか分からない。
何度も鍵穴に鍵を差し直す。
「統也、早くしろ! 弾がもたないぞ!」
「分かってるってッ、」
手間を経て、漸く開錠。
ドアを押し開けた先には、恐怖に表情を歪めた女が突っ立ている。
統也は女を押し倒す勢いで社長室に飛び込み、父親も避難を終えた所でドアにタックル、無事に施錠を済ませる。
到底1人では攻略は出来なかっただろう、死者の群れとの真っ向勝負。
頼れる父親の存在に感謝して止まない半面、統也は眉を吊り上げる。
「何で鍵を開けないんだ!!」
開口一番、統也が怒鳴りつければ、女は目を背けて言い訳を呟く。
「別に……来なくてイイって言ったんですけど……」
この言い草、間違いなく電話先の女だ。統也は呆れ返って大きな溜息を零す。
父親も流石に胆を冷やした様子で、膝をついて立ち上がれずにいる。
それだけのリスクを冒して ここ迄やって来たのだ、女の主張を笑納する事は出来ない。




