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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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「統也、父サンの事は気にしないで良いから、お前は家に帰りなさい。

母サンも心配しているだろうし、父サン、その手筈くらいは整えるから」

「もしかして、ここに残るつもりっ?」

「ここは、先代から受け継いだ大事な会社だから、な……仕方が無い」

「なに言ってるんだよっ、今はそんな事どうでも良いじゃないか!」

「騒ぐなっ、ヤツらに気づかれるっ、」


 口に戸を立てられ、統也は勢いを飲み込む。


「良いか、統也。あの化け物は目も見える。耳も聞こえる」

「し、知ってるけど、」

「それから、厄介なのは鼻が利くって事だ」

「鼻? 臭い?」

「生きているかどうかは、目や耳よりも臭いで判断しているようだ。

中には犬並みの嗅覚を持つのもいる。そうなれば、隠れていても見つかる」


 運動競技場の屋内施設場で出くわした警備員の死者は、それに当てはまる。

きっと、臭いで生存者である統也と田島の居所を嗅ぎ当てたのだ。


「特に、血の臭いには気をつけるんだ。それには敏感なモノが多い」


 オキシドールを大量に散布したのは、血の臭いを誤魔化す為の小策。

父親も、だてに生き延びた訳では無いから頼もしい。


(この事は、岩屋サンと日夏にも教えてやらなきゃな)


「そうだ、父サン。父サンのスマホから電話がかかって来たんだ。

誰かは分からないけど、ここの従業員の女性で、父サンの電話を拾ったって。

生きる意味も無いから死ぬって言うんだ。俺は、その人の事も気になってて……」

「まだ社内に残っていたのか……」

「1人で社長室に籠もってるらしい。出来れば助けてあげたいんだけど……」


 父親が見つかったのだから、携帯電話の1つくらいは冥途の土産にくれてやっても良い。

然し、自分の用が済んだからと言って、知らぬ振りで帰る気にもなれない。


「勿論、父サンは ここにいてくれて良いんだ。

きっと中には アイツらがウジャウジャいる筈だから……

ただ、少しでも安全なルートがあれば、教えて欲しい!」

「父サンだけ ここに残る何て出来る訳が無いだろ。お前に危険な事はさせられない。

部下を守るのだって父サンの仕事なんだから。お前こそ、ここで休んでいなさい」

「駄目だよ、父サンっ、1人で何て絶対に無理だ! 俺も行く!

手当てもして貰ったし、俺はもう大丈夫だから!」

「統也、」

「それに、危険なのはアイツらだけじゃない、

生存者の中にも警戒しなきゃならないヤツがいる!

俺だってアイツらと戦って来たんだ、足は引っ張らないよ!」


 親子揃って血は争えない責任感。

だからこそ、父親の腕を掴む統也の熱意は言って冷めるものでは無いのだ。

最も、ここに息子を1人残しても心配にかわりは無いから、父親は渋々と頷く。



「分かったよ、統也」



 果敢に成長した息子を喜ぶべきか、父親としては複雑な心境だ。


 父親が案内するのは、地下駐車場からもアクセス出来る非常階段ルート。

15階にある社長室までは自力で登らなければならないが、普段は防火戸によって閉ざされている事から、死者の出現は無いだろうと考えられる。


「良かった……父サンがいなかったら正面突破してた所だよ、」

「こんな時でも考え無しじゃ困るぞ? 正面から入ってもエレベーターは使えない。

内階段を使おうものなら、死者に襲われて一貫の終わりだ」

「エレベーター、壊れてるの?」

「こうゆう時に使用するのは却って危ないから止めたんだ。

それにしても統也、お前、随分と物騒な物を持ってるが……それは本物なのか?」


 左足を引き摺り、階段をひた登る統也の肩にぶら下がるのはアサルトライフル。

日本は拳銃社会では無いから、子供が持つ姿は異様だ。


「ここに来る途中に自衛隊の駐屯地に寄ったんだ。それで……」

「盗んで来たのか?」

「ち、違うよっ、友達が持って来たんだ! それを護身用に借りただけでっ、」

「ハァ……分かった分かった。でも、危ないから父サンに渡しなさい。

これと取り換えよう。杖の替わりになるだろうから」


 ライフルは怪我をした統也が持つよりも、父親に任せた方が幾分かマシだろう。

代りに鉄パイプを受け取る。


「父サン、安全装置は外してあるよ。引き金を引いたら弾が出るから気を付けて」

「こうゆう会話、したくなかったなぁ、父サンは」

「ぉ、俺だって、」


 統也の小さな頃に思いを馳せれば、ラジコンカーで良く遊んだものだ。

それが今や銃の扱いについて話す事になろうとは、父親としては現実を呪ってならない。



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