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事実を胸に秘めておく事が辛い。
放っておけば何れ、この心の傷は大きく裂けてしまうだろう。
そうなれば統也自身、正常でいられるかも分からない。
「だから、岩屋サン達は先に進んでください。俺も、後から合流しますから」
「どうやってだよ!? 隣町レベルの距離じゃねんだぞ!? 新幹線も動いてねんだぞ!?」
「その辺は、後で考えます。
2人には先に行って貰って、葉円大や自衛隊を見回っておいて欲しいんです。
もし助けて貰えそうなら、救助要請、忘れずに頼みますよ?」
そう言って通話を切る。
岩屋はフロントガラスから統也を睨みつけ、ガタガタと震える。
「ガキのクセに……何でそうやって死に急ぐんだよ!?」
岩屋からすれば、統也は死にたがりにしか見えない。とても理解できない心境だ。
然し、統也は母親を殺し、その躯すら葬らずに置き去りにしている。
全ては贖罪であり、重責から逃れる為の逃避。
(ある意味、麻痺してしまったのかも知れない。
この狂った世界に馴染んでしまったのかも知れない。
俺こそが怪物なのかも知れない。だってもう、)
「体の震えは止まっているから」
統也は歩き出す。
引き止める事は適わないと知れば、岩屋はギアをリターンに、車を後退させる。
「ま、待ってください! 岩屋サン、統也サンを置いて行くんですか!?」
日夏が運転席に身を乗り出せば、岩屋は煩わしそうに突き飛ばす。
「邪魔だ! 後ろが見えねぇだろ!」
「いッ、うぅぅ……、」
日夏は後部座席の下にしゃがみ込み、岩屋の剣幕にビクビクと怯える。
「アイツが先に行けって言ったんだ! それが1番良いから そう言ったんだろ!」
「そ、そ、そんな……統也サンは僕達の事を心配して……」
「だからどうした! それが何だって!? 何にしろ、それがアイツの判断だろうが!
考えがあっても無くても、言った責任ってのがあんだよ!」
「で、でもっ」
「嫌ならお前もここで降りろよ!
アイツが心配だってなら手伝ってやりゃ良いじゃねぇか!
ついでに、そのゾンビ予備軍も面倒クセぇから連れて行け!」
「!!」
岩屋の指摘に日夏は押し黙る。
統也を待つ事は出来ても、田島を連れて車を降りる度胸は無い。
そんな自身の情けなさに、日夏は膝を抱えて泣き出す。
高校生にもなって日夏は泣き虫だ。岩屋はそれすらも疎ましげにに舌打ちをする。
「ホラみろ、お前だって結局は自分の事が1番大事なんだろうが!
それで良いんだよ、それで!
これまでだろうが、これからだろうが、世の中ってのは奇麗事だけじゃ生きていけねんだ!」
「うぅぅ……っっ、」
「さぁ、どうすんだ! 選べよ! ここで降りるのか、このまま残るのか!」
岩屋は容赦ない。泣いて誤魔化せる相手でも無い。
「ぇ、選べません……僕には選べません……うぅぅ、っっ、」
「そうかよ! じゃぁ黙ってろ!」
留まり続ける事は出来ない。
岩屋の車は次の目的地となるY市へ向けられる。
*
C市中心部に残る統也は、ゲリラの市街戦さながらに物陰に身を隠して先を急ぐ。
(2人はもう行ったかな?)
岩屋の事だ、あれだけ説得しても聞き入れない統也を待つ程お人よしでは無い。
これ迄は目的が決まってなかったからこそ、統也を待つに至ったのだ。
日夏にしろ、あれ程の小心者。統也を追っては来られまい。
(岩屋サンに任せておけば、少なくとも田島と日夏は安全だ。
きっと無事にY市に辿り着く。後は、あの大川由月と言う人に会えれば……)
気づけば統也も、あのホームページを立ち上げた人物に期待を寄せている。
まだ会った事も無ければ、生きているかも分からない相手だと言うのに、不思議な感覚だ。
(別に、あの人の仮説を信じたわけじゃない。
でも、何の前提も持てずにいるより、ずっと頼もしい)
陸橋下のポールに隠れ、ショーウインドウの反射や交差点のミラーを介して周囲を確認。
死者に気づかれれば、騒がれる前に頭蓋を砕く。
ここ数日で随分と板に付いた兵士っぷりだ。




