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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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 抱え持ったアサルトライフルのセーフティーを解除。

発砲が出来る準備を整えてしまえば、緊張感は一気に増す。

周囲を見やって足を運ばせるが、この界隈に人影は確認できない。

死者は建物の中に潜んでいるのだろうか、置き去りにされたバリケード群は同じ方向に向かって倒れている様子から、人の勢いに追いやられたものだと感じる。


「グリーンネット…」


 日夏が疑いを持っていた物だ。

拾い上げてみれば、切れ味の良いナイフで切り刻まれた形跡がある。


(ヤツらに道具を使う知識があるとは思えない。そうなると、誰かがわざと……?)



『狂った殺人鬼です! 怪物です! 無抵抗な人を殺してるのを僕は見たんです!

僕も殺される所だった! 生存者なのに……同じ生存者なのに!!』



 日夏の言葉を思い出せば、背筋が凍る。

ならば、敵は死者だけでは無い。唯一の同胞すらが危険分子。


(信じられない……

死人が蘇えって人を襲う中、全く別の意識を持って今の環境に適応してる人がいる何て、

そんなヤツ、一体どうやって区別をつければ良いんだ!?

アイツらは明らかに死者である事が分かる!

でも、人間の化け物なら見た目は俺達と変わらないんじゃないのか!?

生存者だと思って簡単に信じたら寝首をかかれる!!)


 新たな事実が分かった以上、死者と対峙する気構えだけでは足りない。

心身ともに健康、知能をも持つ怪物にも警戒しなくてはならない。

死者から回避できた事、正常な仲間達に出会えた事、今こうして生きていられる事、

これら全てが奇跡の連続だったのだ。


 統也は目を閉じて呼吸を整えると、携帯電話を取り出し、日夏をコール。


「は、はいっ、統也サン? どうしたんですか?」


 日夏はフロントガラス越しに統也を窺いながら問う。

統也も視界に車中の2人を捉えて続ける。


「日夏の言う通りかも知れない。生存者がここに来て破壊行為を行ったみたいだ」

「やっぱり!」

「そいつが今も ここに留まっているかは分からないけど……

俺はこのまま父サンの会社まで行ってみようと思う」

「ぇ、え!? 駄目ですよ、統也サン! なに言ってるんですかっ、車に戻ってください!」


 日夏が取り乱せば、岩屋は携帯電話を取り上げ、代わって説得に入る。


「まさかお前、水原工業に乗り込むとか言うんじゃないだろぉな!?

親父サンがいるかも知れないからって、今回ばっかりは流石に無理だぞ!!

そんな無茶な事、親父サンだって喜ばねぇぞ!!」


 耳元でギャァギャァと喚かれ、統也は苦笑する。


(岩屋サンらしいなぁ、)



「その通りだと思いますけど。

何か……色々やっておかないと、俺、後悔しそうな気がするんですよ」



 統也の言葉に、岩屋は耳を疑う。


「み、水原君、キミ……」

「ああ、誤解しないでくださいよ、岩屋サン。俺だって死にたくありません。

死ぬ気もありません。でも……」


 統也の目は、真っ直ぐに伸びた先の見えない道の消失点に向けられる。


(我ながら馬鹿な事を言ってると自覚している。

父サンに会いたいって感情が1番にあるのは事実だけど、

もっと根本的な部分で、自分が真っ先に動かなきゃいけないような気がしてる)


 長息を吐き、気を引き締める。


(いや、違うか……本当は怖い。怖くて怖くて堪らない。

だって、銃を握る手がこんなにも震えてる。

そんな俺が1度でも現実から目を背けたら、もう2度と立ち上がれない。

この恐怖に負けて、泣いて、成す術もなく食われて終わる……)



「どうしても死ななきゃならなくなった時、出来るだけ潔くありたいから」



(今はこうして目覚める事が出来る。でも、次には分からない。

明日には俺も田島のようになっているかも知れない。

死んで、人を襲いに行くのかも知れない……

そうなったら、何一つ自分で決める事は出来ないんだ。

そうなる前に、少しでも前に進んでおきたい)



「父サンに会えたら、どうしても言わなきゃいけない事がある。謝りたい事がある」



(俺が母サンを殺しました、って)



「何も言わないまま生き伸びる事も、死ぬ事も、俺には出来そうにないんです」




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