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『葉円成都大って、Y市にある大学ですよね?』
『そういやぁ、Y市にも自衛隊があったか……
うーん、ついでなら行ってみる価値はあるかも知れないなぁ、どうする? 水原君、靖田君』
『行きたいです! 僕、行きたいです! ここに行けば、由月サンに会えるかも!
このおかしな現象を解決してくれるかも知れません!』
日夏は大川由月と言う人物に大いなる期待を寄せている。
ホームページに書かれた持論は飛躍した発想だとは思うが、これからの事は何も決まってない。
小さな望みでも無ければ進めないから、日夏の熱意に岩屋は頷く。
『よし。だったら明日、朝一で出よう』
『はい!』
『その代わり!』
ここで岩屋は口調を改めて言うのだ。
『車を運転するのは俺だ。その車に乗る以上、お前達の命を俺が預かる事になる。
だから、俺の許可無く勝手に動くんじゃねぇ。特に水原君だ!
分かったな!? 絶対にだぞ! でなきゃ車には乗せてやらねぇからな!』
絶対命令に絶対服従。
頼みの綱である岩屋の機嫌を損なわせる訳にはいかない。統也と日夏は渋々と頷く。
こうして現在に至り、統也は早速、岩屋に手痛い1発をくらった訳だ。
(田島にこんな事をするなら、保険だって言うなら、先に一言くらい言って欲しかった。
やっぱり、自分の知らない所で色んな事が決められてしまうのは不安になる……)
車中の空気が重い。日夏は浮かない統也の顔を覗き込む。
「ぁ、あの、統也サン、F地区の駐屯地で着信音が鳴ってましたよね?
あれは誰からだったんですか?」
「!」
ハッと息を飲む。すっかり忘れていた様だ。
(そうだ、そうだった! アレは、父サンからの着信だった!)
そんな大事な事を忘れてしまえる程、統也の現実は切迫している。
慌ててポケットから携帯電話を取り出し、着信履歴を確認。
「やっぱり、父サンだ……」
統也の呟きに、岩屋はフロントミラーに目を向ける。
「良いぞ。かけてみろよ」
「は、はい!」
先程 引っ叩いたのはやりすぎたと、岩屋も反省している。
統也は期待に頬を赤らめ、リダイアルを押す。
(父サン、父サン、生きていてくれたんだ!!)
Turururu――、
応答されるなり、統也は受話器に食いつく勢いで声を上げる。
「父サン!!」
……
……
反応は得られない。
「と、父サン……?」
「……あのぉ、もしもし?」
やっと返答されたと思えば、受話器から聞こえて来るのは女の声。
父親の携帯電話の先に覚えのない女がいると知るなり、統也は声を詰まらせる。
(だ、誰だ!?)
一旦、携帯電話を耳から放し、今一度発信先の番号を確認。
間違い無い。父親の番号だ。
「すいません、あのぉ、もしもし?」
「は、はい! もしもし!?
あの、そのスマホ、俺の父親の物だと思うんですが……失礼ですが、どちら様でしょうか?」
最善の注意をはらって統也が問えば、女は『ああ』と気怠く頷く。
「これ、一昨日の昼間に拾って、私のスマホ壊れちゃったんで、代わりに使わせて貰ってて。
適当にいじってたら そっちにかかったもんだから……ついでに外の情報、聞ければって」
「そ、そうだったんですか……あの、拾ったって、持ち主は?」
「そこまではぁ、ちょっとぉ……」
「何処に落ちてたんですかっ?」
「会社に」
「会社……水原工業ですか!?」
「そうですけど?」
「俺の父は水原達夫と言います! アナタはそこの従業員ですね!?」
「あぁ……これ、社長のスマホだったんだぁ」
「アナタ、まだ会社に!?」
「ええ。まぁ、」
所在を確認すると、統也は岩屋を窺う。
その目は『会社に立ち寄って貰えないだろうか?』と嘆願するものだがら、岩屋は渋々ながら頷く。身内に関する事なら一蹴りする訳にもいかない。




