33
『ま、まだ見てないんですかっ、アレを……』
『アレって?』
日夏は統也に掴みかかる。
『凶暴な人間ですっ、すごく凶暴な……怪物です!』
『に、日夏?』
『ニュースでも言ってたでしょっ? 暑さを理由に暴れて人を殺した人がいるってっ、
生きてるのに すごく凶暴になって、暴力的になって、
化け物だけじゃない、普通の生存者も襲うんです!
壊したり、殺したり、そうゆうのをすごく楽しんでいるんです!』
『ヤンキーか何かの慣れ果てか?』
『違いますよ、岩屋サン! そんなんじゃない! 狂った殺人鬼です! 怪物です!
無抵抗な人を殺してるのを僕は見たんです! 僕も殺される所だった!
生存者なのに……同じ生存者なのに!!』
日夏は感情を露わに、統也に縋りついて泣くじゃくる。精神は酷く混乱している様だ。
(蘇える死者、自殺する者、眠る者、凶暴化する者……)
《生命の本質に関わる地球の脳波が変わる以上、我々人類に対する影響も計り知れない》
(全て、あのページに書かれていた影響だとしたら……)
統也は日夏の背を摩りながら、岩屋を窺う。
『岩屋サン、あのホームページに書かれていた内容、覚えてますか?』
『あぁ。自然環境研究所ってのにあったヤツか?』
『そ、それ、僕も見ました! 生き抜きたければ頭を使え、って!
あれは統也サンが書いたんですよね!?』
『えぇ?』
『だって、言ってくれたじゃないですか、駐屯地で!
だから僕、絶対 生き抜こうって思えたんです!』
怯えて蹲る日夏を、統也はそう言って叱責した事を思い出す。
然し、あれはネット掲示板からの受け売りだ。
『いや、あれは違うよ、日夏。俺もネットの掲示板を見ただけで、』
『そ、そうなんですか?』
『ごめん。まさか、そんな誤解をされるとは思わなかったから』
『そっか……何だ、そっか……僕、あれに勇気を貰って自衛隊まで行ったんです……
もしかしたら釣り何じゃないかって怖かったけど、信じてみようって……」
日夏は又も項垂れる。
期待に応えられずで申し訳ないが、違うものは違う。
(生存者にすら襲われて怖い思いをしたって言うのに、俺が書いたメッセージを信じてくれた。
それもこれも全部、あの言葉が日夏に勇気を与えた……)
『あれを書いた人は、今どうしてるんだろう?』
統也が呟くと、日夏は颯爽と立ち上がって机上のパソコンに向かって腰を下ろす。
『僕、調べてみます!』
『オイオイ、いきなりやる気になったのかぁ? 靖田君、キミ、情緒不安定だな』
『岩屋サン、そんな言い方は無いでしょう、
でも日夏、俺も あのサイトは見たけど、ただ個人的な考えが書かれてるだけで、
書いた人については一切 触れられて無かったと思う』
『はい。でも、ホームページを作るならアカウントは必要ですよね?
そこから個人情報を覗けば、何処の誰かは直ぐに分かりますよ?』
『個人情報って……そんな事、出来るのか?』
『はい。僕、コンピューターオタクだから。そうゆうのは得意なんです』
『ハッカー!?』
『そうゆう言い方もありますね』
人には意外な特技があるものだ。
日夏が内向的でインドア派だろう事は接してみれば分かる事だが、それが高じてハッカーの技能を身に付けるとは、開いた口が塞がらない。
まるでピアノの鍵盤を連弾する様にスムーズに早く、日夏の指はキーボードを叩く。
そして、最後にエンターキーを押すと画面は切り替わり、製作者の情報が表示される。
『はい、クリア!』
『す、すご……』
これには岩屋も立ち上がり、興味深げに画面を覗き込む。
『大川、由月……女の人だな』
『最後のアクセスは葉円成都大学、時間は昨日の10時……
異変が起きて暫く後ですね。きっと、そこに通う生徒サンか先生か……』
『そ、そんな事まで分かるのか!?』
統也は頭を抱えて座り込む。
このネット社会、日夏の様なハッカーの手にかかれば全ての情報が丸裸にされる事を知る。




