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統也は溜息を零す。
「どうした、水原君?」
「ぃぇ……今日はこれから、S県のY市へ向かうんでしたよね?」
「ああ。
そこそこ距離はあるけど、ガソリンはあるし、食いモンもあるし、まぁ何とかなるだろ」
後は、車1台通れる道があれば、目的地に辿り着ける。
日夏は最後部の座席に横たわる田島を瞥々と見やる。
やはり、恐ろしく思う気持ちが誤魔化せない。
(日夏は今年高校に入ったばかりの16才で、すごく小心者だ。
昨日の晩もトイレに行きたいと言って、2度も起こされた)
「大丈夫だよ、日夏。田島は眠ってるだけだから」
「ごめんなさい……でも……大丈夫なのに、何で縛りつけてあるんですか?」
日夏は田島を指差す。
いつの間にやら手足はロープで縛られているから、統也はギョッと目を丸める。
「えぇ!? いつの間にっ、って、何ですか、これ!? これ、岩屋サンでしょ!?」
「あ? ああ。それか? あぁそうだよ。当たり前の保険だろ?」
「保険ってっ、やめてくださいよ! こんな犯罪者みたいな扱い!」
「やめろッ、解くんじゃねぇよ、バカ!!」
岩屋は急ブレーキをかけるなり運転席から手を伸ばし、田島を拘束するロープを解きにかかる統也の服を引っ張る。
「これは俺の車だぞ! 乗っける以上、荷物の扱いは俺が決める!」
「田島は荷物じゃありません!」
「何が荷物かも俺が決めるんだよ! 勝手な事すんな!!」
岩屋は勢い良く統也の頭は引っぱたく。
「イタッ、」
「良いか、良く聞け、クソガキ!
お前は眠ってるだけだから安全って言うけどな、コイツは飲まず食わずで今日で3日目だ!
いつ死ぬか分からねぇ! 今この一瞬にショック死したって、おかしくねんだぞ!」
安全確保に関しては、岩屋の主張は最もだ。
眠った儘である以上、気づかない間に田島が死んでしまう事もある。
そして、死者となって蘇えりでもすれば、不意打ちを突かれ兼ねない。
そんな危険分子を側に置く以上、最低限の備えはしておくべきだろう。
統也は叩かれた頭を抑えながら、渋々と頷く。
「ゎ、解かりました、」
(そうなんだ。昨日の晩、皆で話し合った。これからどうしていくのかを)
*
――昨晩。
『ゾンビにイレギュラーがある、だって?』
日夏の部屋での作戦会議中、岩屋が声を裏返せば、2人は目を合わせ、共感する。
『はい。きっと、多くは力も それ程強くは無いし、感覚も動作も鈍い。
でも俺が見たのは、普通のよりも少し、感覚が優れてました。
静かに隠れていれば やり過ごせると思ったのに、そいつは気づいて……
それに、力も強かった。ドアを破るんじゃないかってくらいに』
『な、何だって!?』
『僕が見たのも、それに近かったと思います。
動き自体は鈍いけど、ガラス窓を素手で割ったり、』
『ま、参ったな、そんなのに出くわしたら……足が速かったりは無いよな?
道は障害物だらけだ。あんまりスピード出して事故率 高めたくねぇぞ、』
『自衛隊の駐屯地でも感じたけど、肉体その物は俺達と比べて だいぶ脆い』
『そうですね。やっぱり、死んでるから……でしょうか?』
『そうかも知れない。再生力ってのが無さそうだから、頭を一撃で狙えなくても、
手足に攻撃できれば動きを止める事が出来る』
『その辺はさ、若者に任せるわ。俺、27のオジサンだから』
岩屋の場合、端から戦う気が無い。
その辺を突いては身も蓋も無くなるだろうから、心に秘めておく事にしよう。
日夏は体を小さく丸め、表情を憔悴させる。
『でも、僕が1番怖いのは……』
『ゾンビより怖いモンがあるのかよ、靖田君は』
『……、』
『日夏、他に知ってる事があるなら教えてくれないか?』
統也に問われ、日夏は頷く。
『生存者の中にも、化け物みたいなのがいる……』
この言葉に、2人はカクリと首を傾げる。
日夏が何を言いたいのか分からない。




