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こうなったら体力勝負。走り続けるしかない。
向かう場所も無いまま門外を目指し、ゴールラインを切る様に駆け抜けると、
そこに、シルバーのワンボックスカーが滑り込む。
キキキキィィィィ……ッ、
「水原君!!」
「ぃ、岩屋サン!?」
疾うに去ったと思いきや、又も岩屋が救世主。
2人の体スレスレにドリフトを決めて車を停めると、乗車を急かす。
「早く! 早くしろ!!」
「はい!!」
統也は後部座席のドアを開け、日夏を押し込むと、自分も続いて飛び乗る。
岩屋はドアが閉まる間も惜しみ、アクセル全開で車を急発進。
統也の背に伸びた死者の手を寸での所でかわし、一難を逃れる。
心臓は今に止まってしまいそうな程の間一髪。
ハンドルを握る岩屋の手はブルブルと震える。
「岩屋サン、戻って来てくれたんですねっ?」
「戻ってねぇよ! ずっとあそこにいたんだよ!
門の前じゃ目立つし、車引っくり返されたら堪んねぇから、壁際に着けといたんだよ!」
「俺、岩屋サンを誤解してました!」
「何が誤解だ、バカヤロ! マジでふざけんな! ホントふざけんな!!
後ろの荷物頼まれたって困るんだよ! 人の迷惑考えろ!
マジでテメぇ、後でブッ飛ばすからな!! これだからユトリは嫌いなんだよ!!」
後ろの荷物とは、未だ目覚めない田島の事だ。
確かに、放って置けば死ぬだろう人間を押し付けられても困る。
諦めたくないと言うのなら、最後まで責任を持って欲しい。
そこを突かれては言い返す言葉も見つからない統也は、ヘコヘコと頭を下げる。
「す、すみません、ご迷惑を……」
「もう良いよ! それより……そいつか? 中に隠れてたヤツは?」
「はい!」
「またユトリか……」
身なりを見れば高校生だと一目瞭然。荷物が増えた様なものだ。
岩屋の苛立たしげな口調に、日夏は小さく背を丸める。
折角 一難を乗り越えたのだ、車中の空気を悪くしたくない統也は日夏の肩に手を置き、岩屋の顔色を窺う。
「彼は靖田日夏君。この人は岩屋サン。車も岩屋サンの物だ。
それから、コイツが田島。俺の友達」
「こ、この人、眠ってるんですか……?」
「ああ。でも大丈夫だよ、まだ。うん。大丈夫だ……、」
ただ静かに寝息を立てているだけの田島を安全と断言する事は出来ないが、統也は自分自身に言い聞かせる様に頷く。
雖も、身近に置くには田島は脅威の存在。日夏は少し距離を置き、統也を見やる。
「アナタが、水原統也サン……?」
「うん」
「はぁ、良かった……僕、掲示板を見て、」
「やっぱり!」
「本当に会えるとは思わなかったです、本当にっ、良い人で良かった!」
「俺もだよ。気づいてくれて嬉しかった。ありがとう、日夏」
2人が固い握手をかわすも、岩屋は乾いた溜息を零して横槍。
「でぇ。揃々 次の事を考えてくれねぇかな?」
「そ、そっか、」
「一先ず給油。水原君、やれるよな?」
「へ?」
「給油だよッ、
あんな危険なトコで待っててやったんだから、それくらいするのが道理ってもんだろ!」
「は、はぃ、」
「それから、何だっけ? お前」
「ゃ、靖田です……」
「靖田君か。
ガソリンスタンドの中に赤い携帯缶があると思うから、それ、幾つか探して持って来て。
そん中にも念の為、ガソリン詰めるから」
「ぼ、僕、ですかっ? スタンドの中って、1人で、ですか……?」
「オイオイオイオイ! 助けて貰っておいて仕事しない気か!?
手が足りねぇんだから協力しろよ! だからユトリは嫌なんだって!」
「す、すいません……、」
初対面の大人に頭ごなしに怒られて反論する度胸は無い。
日夏は自信も無いのに頷く。
セルフのガソリンスタンドに停車すると、統也は周囲を警戒しつつ車を降り、日夏を手招く。
死者に嗅ぎつけられる前に素早く用を済ませてしまおう。
「日夏、その物騒なのは ここに置いといた方が良いかな」
「え!?」
「ここ、火気厳禁だから、誤って発砲したら大変な事になる」
「はぃ……」
ガソリンは気化しやすい。静電気1つで爆発する事もある。
それで無くても先程の日夏の思い切りの良さには命を脅かされているから、万一を考えて武装は解除させておきたい。




