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何者が助けを求めているのか分からないが、必ずしも救出してやれるとは限らない。
岩屋の言う様に、間に合わないかも知れない。
その前に、自分が先に餌食になるかも知れない。
全てが上手くいく確率は極めて低いのだ。
ならば自己の命だけでも確実に守り通す事に利がある。
だが、それに是と頷けないのが、今における統也の正義感。
(俺があんな書き込みをしたから、それで この人はここまで出向いたのかも知れない……
危険を冒してまで、ここに来てくれたのかも知れない……)
「岩屋サン、」
「緊急避難ってヤツだ! 水原君、俺達は今ある自分の命を守るべきなんだ!」
岩屋は再び車を走らせようとする。
《お願い、助けて……死にたくない……》
統也はギュッと目を瞑る。
「やっぱり駄目だ!」
「水原君!?」
「ごめんなさい、岩屋サンっ……田島を、宜しくお願いします!!」
「ォ、オイ!」
統也は車を飛び降りると背を正し、90度に腰を折って深々と頭を下げる。
その姿は死地へ向かう若い兵士の様だ。余りにも痛々しい。
遠ざかる統也の背から目を背け、岩屋は震える手でハンドルを握る。
「じょ、冗談じゃねぇぞ……ぉ、俺は知らねぇからなぁッ、」
*
ジャリ……と、踏み潰す砂粒の音が隊舎の壁に反射して静かに響く。
(昼間だって言うのに、何でこんなに暗いんだよ……)
隊舎の入り口ドアも開け放たれた儘だ。
日差しの介入を拒む様な舎内の薄暗さに、何度と無く固唾を飲まされる。
黒目ばかりを動かし、内部を注意深く見やれば、電球は割れ、テーブルや椅子が倒れている。
まるで廃墟の様だ。
(戦闘準備も整わない内にアイツらの侵入を許したのか? いや、そうとも限らないか、)
足元には薬莢が転がり、ブチ撒けられた血痕が床にこびり付いている。
《何処にいる?》
《正面の入口から入って、直ぐに化け物に見つかって、何も考えないで逃げて……
後は良く分からない、ごめんなさい。
でも、この部屋には武器がたくさん並んでます。もしかしたら武器庫かも》
《分かった。動かず待機して》
《ありがとう、本当にありがとう!》
(学校でもそうだった。沢山の自殺者がいて、それがアレに変化した。
ここでも同じ事が起これば、どんなに警戒していても守りきれなかっただろう。
防衛したくても、眠ってしまった人もいただろうから)
外部からであれば、易々と侵入は許さない。然し、敵は内側にも発生する。
何が原因かは分からないが、突然 自殺する者が現れ、それが死者となって生者を襲う。
街を見て来た限りでは寝倒れる者も多く、その点も踏まえれば、死者は難なく増えたに違いない。
(あっちは戦闘訓練を積んだプロか。非力でノロマ……であって欲しいな、)
統也は足元に転がっているライフル銃を拾い上げる。
勿論、使い方なぞ分からないが、鈍器として使用するくらいの効果は望めそうだ。
とは言え、このまま闇雲に捜索しても仕方ない。ここは慎重に考えながら進もう。
(正面から入って、どっちだ?)
生存者は立ち入って直ぐに襲われたそうだが、今は死者の姿は見られない。
挙って生存者を追い駆けて行ったのか、統也は周囲に目を配り、床の汚れに目を付ける。
(血痕が粉になって擦れてる……
血が乾いた後に誰かが この上を走って行ったんだ。方向は左か)
こんな小さな痕跡に目星を付けられる様になるとは、2日目にして見事な洞察力。
統也は銃を握り、先へ進む。
(生存者が隠れていられるって事は、田島と俺が屋内施設にいた時と同じ状況なんだろう。
ここにいる死者の感覚や知能は それ程高くない。
でも、アイツらは生きた人間を襲う為、紙一重を探し続ける。
だから、生存者の近くに必ずいる筈だ)
死者は生存者を見失った時点で、その界隈を徘徊し続けるだろう予測。
隠れている生存者を見つけるのは難しいが、ウロつく死者を見つけるのは容易だ。




