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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
25/140

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「さて、ここいら辺りからF地区なんだけど……」


 岩屋の声は曇る。

それもその筈、想像していた以上に この地区も荒んでいる。


彷徨う死者の姿は見えないが、路肩の左右に戦車が乗り捨てられている様子から、厳戒態勢が死者の横行を阻止したと言う事だろうか、目を向けるそこ彼処にボロキレの様になった遺体が折り重なって倒れ、酷い悪臭を放っている。


「……どうする?」

「念の為、もう少し近づいてみましょう。

駐屯地周辺は、避難できる環境になってるかも知れないですし……」


 タイヤが遺体に乗り上げないよう注意しながら徐行運転。

暫く後に、自衛隊駐屯地の門が見えれば、岩屋はブレーキを踏んでハンドルに凭れる。


「あ~~人がいるようには見えねぇぞぉ~~」


 門は半開き。

正門から入って真正面に見える建物は隊舎だろうか、多くの人が慌しく動き、その足跡だけが残された祭りの後の如く閑散さ。

まさか、自衛隊ですら適わなかったと言うのか、統也はシートベルトを外す。


「オイ、降りるつもりか!?」

「誰かいるかも知れないから、」

「誰かって、こんなトコに誰がいるんだよ!? そんなん、ゾンビくらいだろぉが!

バカなのか、お前は! これだからユトリはぁ!」


 念の為だ。岩屋に叱責されるも、統也は車を降りる。

然し、地面に足を下ろせば、立ち所にひと気の無さを痛感させられる。



「本当に誰も、いないのか……?」



救いを求めて ここ迄やって来たが、どうやら無駄足だった様だ。


(これから俺はどうしたら良いんだ、どうやって田島を助ければ良いんだ……

何も分からないまま、何処へ向かえば良いんだ……

こんなんで、本当に安全な地は用意されてるのか……?)


昨日の晩には『避難所はある筈』と信じられた統也だが、現実を前に茫然自失。

目的意識も胡散霧消。


(考えてもみれば、テレビもネットも、何処をどう調べたって避難情報は載ってない、

民間人の受け入れが整ってたら、幟を立てるなりして知らせようとするもんだよ……)


 統也は空を見上げる。

気持ちとは裏腹に澄み渡った青空は、薄い雲が棚引き、秋の色を浮かべている。


(飛行機もヘリも飛んでない……

もうとっくに、全ての機能が崩壊してしまったんだ……)


 避難場所は存在しない。

だが、諦観が前提では万に一つの行動にも移れない。雖も、痛惜。

少なくとも『ここは違う』と言う事実を手に入れはするも、今に至る期待が高すぎた様だ。



「絶望的だ……」



岩屋は助手席側の窓を開け、統也に呼びかける。


「オイ、ここはもう諦めよう! 突っ立ってないで早く乗れよ!」

「次は、何処へ行けば良いんでしょうか……」

「知るかよ! 兎に角、今の内にガソリン入れて、次の事はその後考えりゃ良い!」


 移動手段を失う訳には行かない。

岩屋の頭は見通しの良い時間帯に給油を済ませ、夜をどう過ごすかを考えたいでいる。

岩屋のこの切り替えの早さは、ある種の才能だ。


統也はポケットから携帯電話を取り出すと、昨夜に書き込んだネットの掲示板を確認する。

やはり、レスポンスは1件も無い。何にせよ、無駄な行為だった様だ。


「分かりました、行きましょう……」


 統也が後部座席に乗り込むと、岩屋は慎重に車を後退させる。

静かに、静かに。なるべく音を立てず。

統也は暫く躊躇った後、掲示板に書き込む。


(死ぬのを覚悟すると手記を書く人がいるってけど、俺もそうゆうタイプなのかも)



《F地区自衛隊駐屯地、無人。残念です。

次は何処へ向かったら良いのか分からないけど、兎に角、移動し続けようと思う。

その方が、きっと安全だろうから》



 統也にとっての書き込みは、既に生存記録だ。

この日のこの時間、自分は生きていたのだと、自分に言い聞かせる為の手記。

そうして、統也が掲示板に投稿し終えると同時、



《待って、行かないで》



 統也が書き込んだメッセージの返信欄が更新される。



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