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「もぉ少し、ここにいようかなぁ」
「ぇ?」
「いや! 田島君? の事も気にならないわけじゃない!
でも、あぁ……ハッキリ言うと、行く当てが無いんだよ、俺も」
「一緒にしないでください」
「あぁ。そっか。だからさ、俺は帰る家も無いんだって意味だ」
「えぇ?」
「ホームレスってわけじゃないぞ。マンションに彼女と住んでる。来年、結婚する予定だ」
「それじゃ、彼女サンを助けに行かなきゃ駄目じゃないですか!」
「やっぱりそう思うか?
まぁ、水原君ならそうするんだろうけど、どうしてだかなぁ、……うん。
俺はそうゆう気にならなかったんだ」
「え?」
岩屋はシミジミと、『自分でも不思議なのだが』と付け加える。
「キミも街の有り様を見たろ? 酷かったろ? だからもう、手遅れだと思ったんだ」
「手遅れって、」
「言いたい事は解かるよ、解かる。でも、助けに行くのだってどれだけ危険だ?
どうしたってマンションの12階まで無事に辿り着けるとは思えないし、
行って彼女がゾンビになってたら悲惨じゃないか。俺はどーすりゃ良いんだよ?」
「……」
実際、死者となった母親に迎えられた統也には耳に痛い話。
「彼女だって、俺にゾンビになった姿は見られたく無いと思うんだ。
相手の気持ちを考えれば自分が無事であるべきだとも思うし、
現に その選択をしたからこそ、俺はキミ達2人を助ける事が出来た」
「それは感謝してますけど……」
「だろ?」
岩屋の言っている事は理解できるのだが、何処か正当化しようとする必死さが見える。
平たく言えば、婚約者を助に行く勇気が無かっただけの様に思える。
雖も、誰もその行為を責めたりはしない。何せ、状況が状況だ。
命を投げうつ行為を【勇敢】と賞賛するのが難しい事は、統也にも解かっている。
「それに、俺はキミを気に入った。
まぁ、言葉に棘はあるけど、すごく勇敢だ。友達を見捨てない。
そうゆうの、すごく良いと思うから」
「ありがとう、ございます……」
「まぁ、そうゆう事だから、俺達は前向きに これからどうするかを考えてこぉ。
取り敢えず、水原君はどの程度分かってるの、ゾンビの事」
岩屋は改めて陣頭指揮を執る。
仲間として慕うには些か信用ならないが、1人で考えて途方に暮れるよりはマシだろう。
統也は左右に首を傾げながら、これ迄の推論を述べる。
「アイツら、基本は脆いみたいで」
「へぇ!」
「殴ればあっさり倒れるんです」
「へぇ!」
「力比べをしたわけじゃないから一概には言えないですけど、
太刀打ちできない程の差は無いんじゃないかって」
「へぇ!」
「ただ、痛みが無い分しつこい。致命傷があるとしたら……頭、かな……、」
統也はギュッと両手を握り込む。
(母サンの頭を砕いた……そうしたら、動かなくなった……
アイツらにとって、頭より下のダメージに意味は無い。
兎に角、頭さえ潰してしまえば機動力はゼロ……そう思って良い)
母親によって得られた教訓。
これから生きるには役に立つ情報だが、罪悪感は拭えない。
そんな統也を余所に、岩屋は深々と頷いて感心する。
「すごいな、水原君! アイツらと戦って来た何て!」
「ぇ? 岩屋サンは……」
「俺はずっと車だよ。
流石に車のスピードには追い着けないみたいで、ホント助かった。
でも、心配なのはガソリンだな。給油中に襲われたら堪ったもんじゃない。
水原君、セルフのガソリンスタンド、あれ、使い方分かるよな?」
「はぁ、」
「良し。それから、現実的な問題だけど、田島君は諦めた方が良いな」
「え!?」
さっきは『気にならないでも無い』と言っていただろうに、岩屋はコロコロと意見を変える。
「俺は諦めない、そう言いましたよねっ?」
「そうは言ってもだ、さっきのサイトの薀蓄にだって具体的な解決は書かれてなかったし、
予防策がいつ出来るかも分からない。それまで田島君をどうやって生かすつもりだ?」
「そ、それは……」
「まさか病院に行って延命して貰おうとか考えてないよな?
あんなトコ行ったって無駄。街と何も変わらないぞ。
そりゃ、注射器や点滴なんかはストックされてるだろうけど、
そんな物があったって、扱えなきゃ意味が無いだろ?」
そうなのだ。病院だの警察だのは あって無い様なもの。
現に、これだけの騒ぎが起きているにも関わらず、パトカーの1台すら走っていない。
(そんなんで辛抱強く堪えようって、この人、支離滅裂だよ……)
大人の割りに筋道の無い説得力。然し、根拠の無さはお互い様。




