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「え? えぇ!? 嘘だろ!? ホ、ホントだっ、堀内だ!」
「ハァ……お前、朝から悪趣味な嘘をつくんじゃないよぉ、」
「いや、だって! 昨日、救急車が来て、近所のおばチャン達も、お袋もっ、」
「他所の堀内邸だったんじゃないのか? お前、すごい失礼だぞ」
「だって、えぇ!?」
田島は狼狽。
然し、現に堀内は生きて登校しているのだから、噂は噂だったのだ。
どうせ堀内が統也に告白した事を何処からか聞きつけ、その憂さ晴らしに嫌がらせでもしてやろうと、そんな魂胆に違いない。夏病を心配してやったのが馬鹿みたいだ。
統也は『あ~あ~』と呆れ声を漏らしながら、田島を残して堀内のもとへと足を速める。
昨日から付き合う事になった恋人を校門前で待っているのか、
そんな可愛げのある堀内を想像すれば、統也の顔はだらしなくニヤける。
「堀内サン!」
「――」
嬉々として名を呼ぶも、堀内は云とも寸とも言わず、顔も上げない。
照れているのか、暑い中、校門前で立っていたから具合でも悪くしたのか、統也は堀内に駆け寄るなり、その表情を覗き込む。
「堀内サ、」
青白い顔。虚ろな目。カサカサに割れた唇。どう見ても健康優良児には程遠い。
統也は堀内の両肩に手を置き、体を揺する。
「ほ、堀内サンっ? 大丈夫? ねぇ、堀内サン!」
「オイ、水原、どうしたんだ?」
「あぁ、それが、堀内サンの様子がおかしくて……夏病かも知れないっ、」
「堀内サンが!?」
「オーイ! 誰でも良いから保健の先生呼んで来て! 堀内サンが具合悪いってぇ!」
「は、はい! 分かりました!」
「ヤダ、そんなトコ突っ立って誰かと思ったら絵里奈じゃん! マジ大丈夫!?」
「ねぇ、すっごい冷たいよ、貧血じゃん!? 横にしてあげた方がイイんじゃない!?」
流石、校内一の美人と目されるだけあって堀内を心配しれ手を貸す者が多い。
統也はその勢いに押し退けられ、野次馬の輪の外に弾かれる。
(ォ、オイ、ちょっと待て! 俺は堀内サンのカレシだぞ!
昨日からカレシになったんだぞ! カレシ! カレシ! カレシぃ!)
周知されていない事実を この場で主張しても信用され無いだろう。
今は女子生徒達の手によって介抱され、横たわる堀内を外側から見守るばかりだ。
そう言えば田島は何処へ行ったのか、堀内の様に夏病を悪化させてやしないかと思えば気がかりだ。統也は周囲を見回し、後方に その姿を見つける。
田島は立ち止まり、携帯電話で何やら話し込んでいるが、こちらの騒ぎには気づいていない。
(何やってんだ、アイツ?)
無事であるなら今は堀内の事だけを考える迄、と言う所で、田島の通話は終了。
田島は暫く佇み、野次馬の中に統也を見つけると、今に縺れそうな足で歩き出す。
やはり具合が悪い様だ。統也は田島に駆け寄る。
「田島、大丈夫か!? 今、校門前でも、」
「ほ、堀内、やっぱり、堀内……、」
「ああ、そうだよ、堀内が具合悪くして、」
「統也、オレ、お袋に電話して……」
「そうだな。
堀内みたいに倒れる前に帰って、早めに病院に行った方が良いよ、田島も」
「そぉじゃねぇよぉ……やっぱりだよ、オレ、嘘ついてねぇよ、」
「どうしたんだ? お前なに言ってんだよ?」
話が噛み合わない。
顔面蒼白の田島の唇は徐々に震え出す。
「ほ、堀内の家、死体盗まれたって……
け、警察も来て、朝から騒ぎになってるって……
堀内が学校にいる何てフザケるもんじゃないって、オレ、怒られた……」
田島は涙ぐんでいる。具合が優れないのも相俟って酷く歪んだ形相。
嘘をついているとは思えない必死さに、統也はゴクリと喉を鳴らす。
(警察? 死体って、堀内のが? 盗まれたって……)
「……まさか、」
「統也、ホントだって……アイツは堀内だけど、堀内じゃナイんだよぉ」
「……、」
統也は恐る恐る踵を返す。野次馬の背に隠れ、堀内が見えない。




