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「俺、やっと、帰って来たんだよ……? 母サンの事、心配で、心配で……
母サンもそうだろ? 俺の事、心配してただろ?」
(どうしてこんな目に、遭わなきゃならないんだ……)
「大丈夫だよ、解かってる……
死んじゃっても、母サンは俺を待っててくれたんだよね?」
(母サンだけは変わらない……どんな姿になっても……)
「そうだろ?」
統也の問いに応える様に、母親は口を大きく開くと濁った声で雄叫びを上げる。
「アァアァアァアァアァ!!」
「!!」
母親は牙を剥き出しに髪を振り乱して統也に飛びかかると、力任せに床に押し倒す。
「うわぁッ、うわぁぁぁ!! ああ!!」
「ガァアァアァアァ!!」
統也に食らいつこうと顔を突き出せば、ガチン! ガチン! と歯を鳴らす。
「母サンっ、母サン!! 俺だよ、統也だよ!!」
「アァアァアァアァアァ!!」
「俺の事、忘れちゃったのかよ!?」
「ガガガガァアァアァ!!」
この儘では喰い裂かれる。
統也は母親の腹を蹴り飛ばし、一時を回避すると壁を伝って立ち上がる。
「ハァ、ハァ、ハァッ、……か、母サン、ご、ごめん……、」
「ウゥウゥウゥ、アァアァアァアァ!!」
「落ち着いてっ、思い出してくれよ! ねぇ、頼むから、母サン!!」
統也は後ずさりながらの嘆願。然し、母親に言葉を理解する思考は無い。
(悪夢だ、やめてくれ、助けて、元に戻して、元の世界に返してくれ、
こんなの……)
再び飛びかかって来る母親の顔は、生前の優しい笑みの1つも連想させない。
もう既に、別の存在に変わっている。
(こんなの、俺の現実じゃない!!)
統也は傍らに立つ電気スタンドを握り、振り上げる。
「ガァアァアァアァアァ!!」
「うわぁあぁあぁあぁ!!」
ガツン!!
電気スタンドは母親の頭にめり込み、ヘシ折れる。
そして、統也の目には、仰け反って倒れる母親の姿がスローモーションの様に映る。
(母サン……)
母親は静かに倒れ、その後、動く事は無い。
(不死身じゃ、無かったのか……)
「母サン、」
(頭を潰してしまえば、死んでしまうんだ……)
「母サン……?」
(俺が、殺した――)
「うぅ……うぅぅ、あぁ、あぁ……あああああああ!!」
統也は泣き崩れ、頭を掻き毟る。
(俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した……)
「俺が殺した!!」
掌には、母親の頭を砕いた感触。
(母サンは、優しかった……
怒るけど結局は許してくれて、いつも俺の事を考えてくれて、それなのに……)
一瞬、母親では無く、ただの化け物に見えたのだ。
だからこそ、電気スタンドを容赦なく振り下ろす事が出来た。
(俺は自分の事だけ考えて、自分が生きる為だけに、手段を選ばなかった……)
「最低だ……」
(こんなやり方、最低じゃないか……
俺なんか生きてる価値、無いじゃないか、死ねば良い、死ねば良いのに……
でも……)
2度目の死ばかりは素直に受け入れた母親の亡骸を見つめ、統也は奥歯を噛み締める。
(この期に及んで、俺は死を恐れている……)
統也は涙を拭うでもなく立ち上がり、ソファーを飾るクロスを剥ぎ取ると、母親の屍にかけてやる。せめて、その姿を隠してやりたい。
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