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「そ、そんな、ちょっとっ、冗談だろ!? 待って、助けてって!
フザケンな! 何でだよ、人で無し!! 最低ヤロー!! 次ぃ会ったら覚えとけよ!
お前が助けてくれって言っても、俺だってお前を見捨ててやるからな!!」
統也に この次は無いだろうに、見事な負け犬の遠吠え。
だが、このまま素直に喰われてやるのは癪に障る。
腹の底から叫びながら、統也は鞄を振り回して死者達を払い飛ばす。
無駄な足掻きと分かっていても、抵抗の限りは尽くしたい。
(後、後もうちょっとだったのに、もう少しで家に帰れるって……
やっとここまで来たのにっ、生きた人間に見捨てられて死ぬなんて!!)
人間同士、必ずしも助け合える訳では無い。
そんな冴えない辞世の句を残さなくてはならないとは、残念な事だ。
「畜生ぉ!!」
キィィィ……
「……?」
統也の怒号に、ワンボックスカーは再びの急ブレーキを聞かせ、僅かにバックする。
統也の10メートル程先で停まると、運転席の窓が開く。
「後ろ、早く乗れ!」
捨てる神あれば、拾う神ありの1人2役。運転手の男は統也を急かす。
出来ればもう少し手前に車を寄せてくれれば有り難いのだが、それは流石に怖いのだろう。
贅沢を言っては また置いてきぼりをくってしまうだろうから、統也は力を振り絞って車に走り、田島と共に後部座席に飛び込む。
「早くドア閉めろ!!」
「は、はい!」
兎に角、恐ろしくて仕方が無い。男はドアが閉まるなりアクセル全開で急発進。
その勢いで、統也は前座席に顔面をぶつけ、田島は足元に転がり落ちる。
「いッ、てて……、」
踏んだり蹴ったりだが、一先ずの危機を逃げ果せるに到ったのだから不幸中の幸い。
恐怖に顔面蒼白の男は、フロントミラー越しに統也達を見やる。
「高校生か……」
「はいっ、本当に、本当に、助けてくれてありがとうございます!」
「お前、散々な事言って叫んでたろ……まぁ良いけど。隣のそいつ、眠ってんのか?」
「えっ、……ぇぇ、はい、」
統也の答えに、男は露骨に表情を濁す。
「あぁ……、倒なモン拾っちまったぁ……」
「え?」
「え? じゃねぇよ、そいつもその内ゾンビ化すんだろぉがッ、」
「ぃ、いや、田島はただ眠ってるだけで、」
「そのうち死ぬだろぉがッ、飲まず食わずでいつまで生きられると思ってんだッ?
だからユトリは……」
察しの悪さを『ユトリ教育の弊害』と言いたい様だが、哀れまれる程、統也も馬鹿では無い。
大体は範疇。だからと言って、田島を切り捨てる事が出来ない。それだけの事。
「田島が寝て、まだ半日も経ってない……餓死する前に起こせば良いんですっ、」
「そうなったら起きないに決まってんだろッ、この状況、何も分かってないのか?
あぁ、だからユトリは……」
「た、助けて貰って何ですが、そうゆう言い方は……やめてください、
分かってますよ、少しくらいは……眠ったら、そう簡単には起きないって……
でも、絶対って思いたくないんです!
もしかしたら、起こす方法があるかも知れませんから!」
「ハァ。……で、どうするつもり? どっか行く当てあるのか?」
「家に、帰ろうと思って……、」
「家に!? なに、キミの家はNASAか何かなの!? 家に帰れば安全だと思ってるのか!?」
「そ、そんな事、思ってませんよ!
でも、行く当て何て無いんだから、家に帰るくらいしか無いでしょうが!
大人と違って、あっちこっちに顔きかないんですよ!」
自覚があるかは別として、男の口調はいちいち人を馬鹿にしている。
漸く出会えた生存者だと言うのに、打ち解ける気になれない。
統也は左右の窓から景色を見やり、男に言う。
「……すいません、次の角を右折して貰えませんか?」
「右折?」
「はい。家がそっちなので、すいませんが、そこまで乗せてって貰いたいんです」
「うーん、」
「勿論、余りにも危険だったら諦めます。
田島もいるし、長居してもご迷惑でしょうから、適当な所で下ろしてください」
社会人の男からすれば、高校生なぞいても戦力外。無駄な荷物でしかない。
それならそれで仕方なし、ならばこれ迄と、意外にもあっさり引き下がる統也に、男は気まずそうに苦笑する。
「まぁ、良いけども。じゃぁ悪いけど、着いたらトイレぇ貸してくれるかな?」
「はぁ、」
外で済ませるよりは安全。男は存外強かだ。
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