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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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 岩屋の車は無事、駐屯地を切り抜け、10日目を迎える夜明けの空を頭上にひた走る。


「うぅぅ、うわぁあぁあぁん! 統也サン、統也サン!」

「うるせぇ! 泣くな! 統也は追いつくって言った! だから進むんだよ!

テメェはアイツをを信じられねぇのか!? あぁ!?」

「だって、だってぇぇ!! うわぁあぁあぁん!!」

「あぁクソ……、でぇ! 俺は何処行きゃ良いんだよ、バカヤロ!!」


 車庫を出た後の事は話していなかったから、何処に向けて走ったら良いのか分からない。

今思えば、生きて脱出できるか分からないあの局面で、敢えて出さなかった話題であった様に思う。


 車中では意識の戻らない由月を膝枕する仁美が、顔を伏せたっきり一言も喋らない。

肩を上下に呼吸を整えている。気を緩めれば日夏と一緒に泣き喚いてしまいそうだ。

だが、何処かへ向かわなくてはならない。生きている限り。


 日夏は泣き声を飲み込む。


「そ、そう言えば、統也サンが言ってました……」



『日夏、相手がどんなヤツか探れないか?

もし分かるようなら、ここを出た後、向かってみたらどうだ?』



「そうか、そうだったのか……

統也サン、あの時にはもう、田島サンと残るって決めていたんですね……」


 思えば、他人行儀な統也の言い回しだった。

『行ってみよう』では無く、筋道を立てるだけの提案。

そんな孤独な決断を統也が あの時には下していたと思うと、又も涙が込み上げる。



『お前、守ってやれるだろ?』



「ッッ、……僕は、泣かないっ、」


 日夏はグッと口の両端を縛り、何度も鼻を啜ると深呼吸を1つ。

力強く目を見開く。


「岩谷サン、A県に行きましょう。そう、統也サンが言っていました」

「……結構な距離になるけど、そこに何があるんだよ?」

「生存者がいます。もしかしたら発狂者かも知れない。でも、僕達と同じかも知れない」


 岩屋はフロントミラー越しに日夏を見る。日夏は袖口で涙を拭っている。

その仕草がまるで統也を見る様だから、岩屋は一笑して頷く。


「だったらまぁ、確認くらいしても良いか!

その内、アイツも田島君と吉沢サン乗っけてバイクで追っつくだろ!」

「はい! 絶対に!!」

「バイク、2人乗りだと思いますけど……?」

「なに言ってんだよ 平家サン、アイツぁヒーローだぞ?

バイクに3ケツくらい やってのけるに決まってんだろ!」

「……あぁ、そっか。そうかも、」


 車は走る。次のA県に向けて。

統也の祈りと共に、生き延びる旅は終わらない。





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