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「え? 統也サン?」
同乗しない統也を窓越しに、一同は目を丸める。
「言っただろ。道は作る。それに、基本、俺はバイクだって」
統也は運転席のドアをバン! と叩き、岩屋に目を側むと笑う。
「無事に突破してくださいよ?」
「統也、お前……」
「駄目ですっ、統也サン! 一緒に行きましょう!」
「そうだよ! 早く車に乗って!」
「田島を置いては行けないから」
「統也っ、」
「俺は追いつきますよ。この前みたいに。
それまでは岩屋サンが、皆の命を保障してあげてください」
「っ、」
統也の言葉に、岩屋は柄にも無く目に涙を溜める。
そうは言っても、素直に悲しみを表現できる程、純粋な大人では無い。
不器用に笑う。
「解かった……ヒーローが言うなら、しょうがねぇな!」
言下、岩屋はエンジンを吹かす。この音に、死者等は又も前進を始める。
去って行く仲間達に手を振ってやる事は出来ないが、統也はロケット砲を肩に担ぎ、照準を定める。
「よーい……」
狙いを定めてトリガーを引く。
ドン!!
ロケット弾の発射に合わせ、岩屋の車は急加速。
日夏と仁美は車窓を叩き、残して行く統也を目で追い続ける。
弾道は死者を薙ぎ倒し、進む道を切り開く。
そして、弾丸が地面に突き刺さる前に岩屋の車はスリップストリームから離脱だ。
間も無くして爆発。
走る車を後押しする様に、爆風が舞い上がる。
屋根の上からワンボックスカーが走り出したのを眼下に、吉沢は笑う。
「見てくださいよ、浜崎サン!
アナタが守った人達が、また生き延びましたよ!」
吉沢の血に手を伸ばす死者の群れの中には浜崎の姿。
吉沢は悲しげに笑う。
「後、弾が2発残ってます……1発は浜崎サンの、1発は私の。
私達、自衛隊員が人を殺める事が無いように、始末は確りつけましょう」
「ガァアァアァアァ!!」
「大丈夫ですよ。この距離なら、今の私でも外さない」
浜崎の頭に銃口を向け、撃鉄が上がれば弾は命中。
ドサリ……と倒れ、死者の群れの中に沈んで行く。
「ハァ……私も、もう駄目ね……」
『自衛隊では、そんな諦めも教え込まれるのかしら?』
由月の言葉を思い出し、吉沢は頭を振る。
「フフフ、違うわ。私は生き延びたのよ。だからこそ、死を受け入れられるの」
出血は止まらない。
命が尽きるカウントダウンを、吉沢の弱い心音が教えている。
「オアズケよ。化け物達」
最後の力は自らの頭を撃ち抜くトリガーに込め、吉沢は屋根の上で横たわる。
*
シャッターは再び閉ざされる。
「なぁ田島、すごく不思議なんだ。俺、皆は絶対に生き延びるって確信してる。
何でだろうな? でも、お前もそう思うだろ?」
車庫の中に残されるのは、統也と田島の2人ばかり。
見渡す限りに屍が転がり、外には未だ死者が騒いでいるが、吉沢の健闘の賜物でその数は激減した事だろう。
その上【例外】の存在は由月によって葬られているから、この空間は当分 守られる。
「田島、もう好い加減起きろよ? 俺は彼女の……
由月の考えに、間違いは無いと思ってるんだ。だからここに残った」
「――」
「イカレてるのかな、俺。俺も発狂しているのかも知れないな。
そうなれば、少しはお前と対等になれるかも。あぁ、甘いか……」
「ウゥウゥ……」
「おはよう、田島。久しぶり」
痩せ細った田島の体が蠢き出せば、ストレッチャーに拘束する革ベルトはギシギシと音を立て、難無く引き千切られる。
田島はブリキの玩具の様な ぎこちない動きで起き上がると、背筋を伸ばす様に深呼吸。
首を左右に傾げながら、ゆっくりとストレッチャーを降りる。




