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車庫の表に備え付けられた梯子を上がれば、屋根の上に出られる。
足元を見下ろすそこには、蜘蛛の糸に手を伸ばす地獄の亡者の如く死者達。
「ハハハッ……ここから、お前らのマヌケ面を死ぬまでブチ抜いてやるからっ、
ハァッハァハァハァッ、覚悟しろ!!」
吉沢は敢えて血を滴らせ、死者達の注意を引く。
こうして一箇所に寄せる事が出来れば、脱出の道を作りやすい筈だ。
「クソっ、、1人で引き受ける何てマネ、絶対に許さないからな!!
絶対一緒に ここを出てやる!!」
統也が叫ぶも虚しく、ライフルの残弾が尽きる。
「日夏!!」
「は、……ゅ、由月サン、由月サン!!」
日夏は返事を飲み込み、蕩恐。
その様子に統也が背後を振り返れば、銃身を掴んで死者に殴りかかる由月の姿。
「うぁあぁあぁあぁあぁ!!」
獲物との距離があっては死者が吉沢に呼び寄せられてしまう。
直ぐ側に生きた肉を晒す事で行く手を阻む由月の強行手段。
思い切った事をすると言うレベルでは無い。
「ぉ、大川サン!?」
目を疑ってならない。こんな危険な行為は早く止めなくてはならない。
だが、死者の頭を砕いて暴れ回る由月の余りにも楽しそうな姿に、放心せずにはいられない。
(やっと解かった……)
由月の目は弓なりに細められ、声は高らかに笑う。
「ギャハハハ!! ギャハハハ!! 私は自由!! 自由!! やっと自由になれた!!
精神と言う、つまらない鎖から解放された!!」
《現状に於いては安定剤などの投薬による制御が有効だと思われる》
「大川サン、発狂者はアナタ自身だったのか……」
『安定剤なんて、どうして……?』
『時々混乱するのよ』
(ずっとそうやって、1人で心音の影響に堪えていたのか……
坂本サンが死んだ時も衝動を抑えて、俺達を守る為に正気を保った……)
『何故、アナタ達は影響の外にいられるのかしらね……』
(『私達』では無く『アナタ達』って言ったのも言い違えたんじゃ無かった……
ずっと話をはぐらかし続けてたんですね……)
抑えて抑えて、由月は冷淡とも言える程に冷静を維持し、決して動じないよう心を閉ざして来た。そして、自らも実験体として生存者が生き延びる為の手立てとする。
だが、今は全てから解放され、自由を獲得した。
「生命と言う下らない物理を捕らえて! グチャグチャに切り分けて!
元素の単位に解剖して! そうして晒せ! 醜い種の起源を!!
私の前に晒せ! 晒せ! 晒せ!! ギャハハハハハ!!」
片っ端から死者を殴り倒すと、次には松尾の背に視点を定める。
「駄目だ、大川サン!!」
「うあぁあぁあぁ!!」
ガツン!!
由月の身長からでは、どんなに上背を伸ばしても松尾の頭部には届かない。
固い銃床に背筋を殴り付けられた松尾は、片腕の一振りで由月を払い飛ばす。
ゴロゴロゴロ!! と、由月の体は床を転がる。
「大川サン!! ッッ、クソ!!」
統也は背中に差していたハンドガンを抜く。『上手く使え』と吉沢に持たされた物だ。
松尾の頭に銃口を向け、迷わず引き金を引く。然し、当たらない。
やはり、狙うには的が小さすぎる。
「だったら、当たる距離にまで詰めてやるよ!!」
統也は弾倉が空になったライフルを投げつけ、松尾の注意を引く。
(掴みかかって来る、その瞬間を狙う!!)
松尾の足が統也に向けられる。
【例外】の驚異的な威圧感を充分に引きつけ、手が届くか否かの間合いが好機。
だが、恐怖に滲んだ汗で指が滑り、トリガーを引きそびれる。
(しまっ……!!)
一切の間合いを失えば、統也は足を縺れさせ、ドサリ! と、背中から横転。
松尾は統也に股がると、大きな口を開けて顔を突き出す。
「グアァアァアァアァ!!」
「統也サン!!」
「待て、日夏!!」




