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「日夏」
ワンボックスカーの後部座席で仮眠中だった日夏は 目を擦りながら、それでも素早く体を起こす。
「は、はい、交代ですねっ、頑張ります!」
「少し早いんだけど、ごめんな? 考えたい事があって」
「はい、任せてください! 僕、頑張りますから!」
「ああ」
岩屋は背凭れを倒した運転席で、鼻を鳴らしながら熟睡中。
日夏はスッカリ持ち慣れたライフルを手に車を降りると、思い立って統也を振り返る。
「あ。そうだ、統也サン、
さっき寝る前に由月サンのホームページを覗いたんです。
そうしたら、更新されてました! 由月サンって本当にスゴイですよね!
今回は発狂者について書かれてたんですよ!」
いつの間に更新したのか、
そう言えばS県の診療所で、統也は『発狂者についての観察はどう行っているのか?』を由月に問うたが、結局それは別の話に摩り替わっていた事を思い出す。
「分かった。俺も見ておくよ」
「それから、生存者は他にいないか、ネットを探してみたんです。
そしたらコレ、見てください!」
日夏は携帯電話の画面を統也に見せる。表示されるのはネット掲示板だ。
統也と日夏の遣り取りの後に たった一行だけ、何者かが書き込んでいる。
《更新されないけど、死んだのか? 名無し》
統也は顔を上げ、日夏を見やる。
「これ……」
「日付は昨日です。
レスした方が良いのか分からなくて、発狂者だったらって……」
生存者がいたからと言って両手放しで喜べないのが残念だが、地上には未だ命が残っているのは確かだ。それが希望に繋がる以上、諦めてはならない。
「日夏、相手がどんなヤツか探れないか?」
日夏には優れたハッキング技能がある。
掲示板に書き込んだ端末から個人情報にアクセス出来れば、相手の位置が確認できる筈だ。
日夏は気難しげに眉を顰めるも、深く頷く。
「今の環境で出来るか分からないけど……やってみます!」
「頼むよ。もし分かるようなら、ここを出た後、向かってみたらどうだろう?」
「ああ、そっか、そうですよね! どうせ行く場所なんて無いんだから!」
車庫を脱出する事ばかりで、その後の事は何一つ決まっていない。
日夏は自宅から持参したノートパソコンを車から持ち出し、灯りのある由月の元へと走る。
その背を見送り、統也はポツリと零すのだ。
「何だ、俺……答え、出てるじゃないか」
日夏と明日の話をして、自分が今後をどう考えているのか気づけた気がする。
それが清々しくも感じるから、この結論に間違いは無いのだろう。
統也は後部座席に腰かけると、ドアは閉めずに携帯電話を取り出す。
(それにしても、大川サンはどうやって発狂者について調べてるんだろう?
更新したら更新したと言ってくれれば良いのに)
雖も、由月は自ら発言する事の無い研究者だ。求められなければ口を開かない。
今の内に確認て理解を深めておこう。統也は由月のホームページを開く。
《発狂者についての経過観察。――発狂者は2つに分けられる。
1つは、自殺衝動に駆られる者。1つは、解放感を求めて暴挙を働く者。
ここでは後者についてを【発狂者】と定義づけて説明する。
蘇えりの者と違い、発狂者とは意思疎通・会話が可能だ。
然し、発狂者は発狂の時点で譲歩や加減と言った意識を持たない。
常に欲望の赴く儘と言う点については蘇えりの者と類似する》
《又、発狂者に行動パターンは無い。
日常的に感じていたストレスや欲求に作用され、表現も異なる。
知能は高く、正常を偽る技術を持っている事を忘れてはならない》
これが、生存者と発狂者を見分けられない理由。
内に秘められた凶暴性に気づけなければ、死者に喰われる前に殺されてしまう。




