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「ぅ、嘘だ……死んでないなら、蘇えったりしない……」
「眠りの最終的な形は、死なずの蘇えりなのかも知れない」
これまで事例が無かったのは、眠ってしまえば須らく死者の餌食になっていたからだ。
ここまで無事に眠り続けたのは田島くらいだろう。
「そしたら、だって……眠ったって、助からない……」
「ええ。影響には打ち勝てない」
もはや手遅れ。
自殺や発狂・蘇えりの影響から逃れる為に人体が図った眠りの現象も、地球が奏でる不協和音を防ぐには至らない。
「アナタが決めなさい。
彼が目覚めるまで守り続けるか、その前に眠らせてあげるか」
「そんな、事……」
先に引導を突きつけられたのは統也の方だ。
頭を抱え、その場にしゃがみ込む。
(田島を殺す? 俺が?
いや、いざとなれば仕方が無い……確かにそんな覚悟はあった。
でも、田島は生きている……これまでとは違う……死んでない……死んでないんだ!!)
田島は命を繋ぎながら、ただ眠り続けただけの事。
それが、結局は死者と変わりない存在になる為の経過でしかなかったとは思いたくない。
「出来ない……そんな事、出来ないッ、」
何の為に守り続けたのか、統也の気持ちは解かる。
だが、感情論で片付けるのは危険だ。
「この状態で生きているのが嘘のよう。
でも、このままだと何れ、銃でも歯が立たなくなるかも知れない」
「!!」
「皮膚が鋼鉄化すれば、脳を破壊する事は難しくなる」
「ぃ、意思が、あるかも知れないっ……死んでないなら……」
「アナタが望むなら、目覚めるのを待っても良い」
「ぇ? ……でも、意思が、無かったら……」
「私達が餌食になるだけ」
「!!」
統也は立ち上がり、由月に掴みかかる。
「分かりませんか!? 何とか分かりませんか!? 今、田島に意思があるのか無いのか!」
「無理よ」
「そんな事言わないでっ、頼むから、お願いですっ、大川サンなら判るでしょ!?」
「何の機材も無いのよ、判らないわ」
統也は勢いに任せて由月を木箱の上に押し倒し、抱き縋る様に懇願する。
「そんなの、そんな判断、俺にさせる何て……そんなの冷酷すぎるッ、
そんなの俺が決められるわけ無い……田島は友達だって言ってるのにッ、」
由月は泣き出す統也の頭に手を添え、抱き寄せる。
「そうね。冷酷ね」
由月の腕の中は細く、体重をかけては押し潰してしまいそうな程の脆さ。
それでも、温かな体温に顔を埋めずにはいられない。
統也は由月の白衣をギュッと掴む。
「それじゃ、ここで彼の目覚めを2人で待つのはどう?
意思があるのかを確認して、もしあったなら、以前と同じ。
楽しく暮らすのよ。私はアナタ達に勉強を教えるわ。
その代わり、アナタ達は私の友達になって笑わせてちょうだい」
「大川サン……」
「でも、無いと判断できたら、その時点で彼を殺す。
殺せなかったら2人で彼の餌食になりましょう。蘇えったら3人で一緒に彷徨うのよ」
余りにも単純に美しく纏められた物語。
由月の言葉で紡がれれば、残忍さが微塵も感じられないのが不思議だ。
どちらに転んでも夢が残る。
「本気で、言ってますか……?」
「ええ」
「俺の所為で、俺と死ぬって事ですよ、それ……」
「別に良いじゃないの」
間近に見える由月の顔に嘘は見られない。
ただ、いつも通りの落ち着いた美しい表情。
(させられない、そんな事……)




