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「大川サン、田島は俺が見ていますから、少し休んでくださいっ、」
「アナタこそ休んだら? 見張りなら私が兼任しますので」
「日夏から聞きました、セミトラで正門に突っ込んだって……どうしてそんな危険な事をっ、」
良く見れば、由月の額には血が流れた痕跡。
出血は止まっている様だが、衝撃のダメージは体に負っている筈だ。
統也が案ずるも、由月の目は田島に注がれるばかりで鮸膠も無く言い返す。
「最善の方を取ったまで」
集い出した死者達の目が、いつ岩屋の車に向けられるか分からない。
そうで無くとも、統也達が追い詰められるのは時間の問題だっただろう。
死者の意識を反らす為にも、由月は派手な演出をする必要があったのだ。
あの儘セミトラックが炎上でもすれば、多くの死者を巻き添えに出来たのだが、それには至らなかった事を残念に思うばかりだ。
「お願いですから、そうゆう事はやめてくださいっ……前にも言いましたよね?
皆が生き残るにはアナタの力が必要なんです、何かあったら皆が困るんですっ」
「私は、アナタがいなくなる方が困る」
「! ぁ。……あぁ、はい、ありがとうございます、」
誤解は禁物。
深読みをしては、また自分にとって都合の良い解釈をしてしまいそうだ。
統也は素直に頷くに留まる。
「じゃ、じゃぁ、お互い気をつけよう、と言う事で……」
「フフフ! アナタ、本当に面白い人」
由月が笑えば、統也はホッと肩を撫で下ろす。
「大川サンが笑うと、何か、安心します」
「―― そう、」
由月は顔を背け、田島の痩せこけた頬に手を添える。
何度も何度も指先で顔を撫で、皮膚の感触を確かめる様だ。
「田島の容態は……」
「田島君は、どんな人だったのかしら?」
「え?」
「アナタが ここまでして守る理由を聞きたいと思っていたの」
統也は黒目を上に小首を傾げる。
改まって聞かれると、これと言った理由が思い浮かばない。
「友達だって事くらいかな」
「友達……」
「強いて言えば、1番仲が良い友達。
高校入って3年間同じクラスで、成績も同じくらいで。
でも、俺と違って屈託が無いって言うか、いつもバカやって俺を笑わせてくれて、コイツがいたから学校も楽しかった」
「だから、守るの?」
「どうかな……でも、約束したんです。置いていかないって。起こしてやるって」
統也の事だ、相手が田島で無くとも友達と思える相手ならば必死に守り通すだろう。
年齢にしては実に洒脱した考えだ。それでいて人情がある。
「そう。それなら私も、友達にして貰いたかったわ」
統也がそこまで評価する田島と友達になれれば、さぞ楽しい日々が送れるだろう。
然し、過去形。
そんな由月の言葉に統也は視線を泳がせ、深刻さを誤魔化す様に苦笑する。
「た、田島も目が覚めて、大川サンを見たら驚くと思いますよ。すごくキレイだって。
あぁ、でも、何かヤケちゃうな……どうせなら俺も友達にしてくださいよ、
勉強も教えて貰いたいし、そしたら俺達の成績、すごく伸びると思うんですよね、
田島は数学が苦手だからっ、」
「田島君に触れてみて」
由月は焦心を聞かせる統也の言葉を制し、目を側む。
「ぇ……?」
「皮膚に、触れてみて」
静かに迫る由月の言葉。統也は恐る恐る田島の頬に手を伸ばす。
「!!」
(硬い!? まるで、岩の表面みたいだ……どうして、こんな……)
「田島……?」
「変化し始めている。
彼はまだ生きているけれど、目を覚ませば彼等と同質の存在になる」
由月の言葉に、統也は一瞬視界を眩ませ、後ずさる。
「な、に……それは、どうゆう……」
「今は眠っているだけ。死を待たず、既に蘇えっている」
生きながら死者となった。由月はそう言っている。
だが、統也にその言葉を受け入れる事は出来ない。




