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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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 蘇った男は、9日目の今も大学の研究室前をウロウロと彷徨い歩いている事だろう。

そんな姿を想像し、研究室に閉じ籠もり続けた自分自身が如何に弱い存在であるかを思い返し、由月は自嘲する。

だが、由月の以前に何があったかを知れない吉沢には、覚ってやれない心情だ。


「私から見るアナタは誠実で自信に満ち溢れているけど、内面はまた別なのかも知れない。

でも、私はアナタがいてくれて安心してる。きっと、皆そうよ」

「……」


 吉沢の手当ては完了。由月は立ち上がる。


「定期的に意識の確認に窺います。それまで、どうか休んでいてください」

「助かるわ。もし私が死んでいたら、容赦しないでね?」


 吉沢は腰を挙げ、貧血でクラクラする頭を抱えながら寝床の車へ。

その背を見送る由月は力無く目を伏せる。



 明日の脱出準備に動き回る仁美は、工具セットを両手に抱えて統也に言う。


「ねぇ、これからはさ、私に出来そうな事はさ、言ってくれるかな?」

「え?」


 唐突に何を言い出すのか、掻き集めた銃器を手に統也が首を傾げると、仁美は顔を背ける。


「だから! やれるコトがあるなら手伝うからって話!」

「今も手伝って貰えて感謝してますよ?」

「そうじゃナイっつーの!

だからさ、私は頭も良くないし、車も動かせないし……

戦えない分、他で動こうと思ってるんだってっ、

でも、実際に何やったらイイのか分かんないから、声かけて欲しいって言ってんの!」


 岩屋に指摘される迄も無く、自分がそこにいるだけの存在であると仁美は気づいている。いつでも肩身が狭いのだ。

だからと言って、率先して動ける程の行動力も度量も無い。

だが、頼まれでもすれば、どうにかしようと試行錯誤は出来る。

僅かであっても仲間として尽力したいでいる仁美の思いに、統也は一笑する。


「ありがとうございます。

それじゃ、これからは平家サンに甘えさせて貰いますね」

「え!?」

「え?」

「ぁ……ああ! そっちね、ハイハイ! お言葉に甘えてって事、ハイハイ!」

「ぁ、あぁ、すいません、俺、日本語下手で、」

「別に! 通じてるから大丈夫!」


 仁美は顔を赤らめ、岩屋の車に走る。

入れ違いに現れる日夏は、2人の奇妙な空気に首を傾げる。


「統也サン、どうしたんですか?」

「ぃ、いや、何でも無いよ。日夏は岩屋サンに怒られてないか?」

「はい、大丈夫です! 岩屋サン、イビキかいて寝てますよ」

「そっか。良かった。明日も岩屋サンには頑張って貰わなきゃならないからな」


 明朝にはこの車庫を脱出する。随分な強行突破になるに違いない。

不安は尽きないが、今は成功のビジョンだけを思い描こう。

日夏は休むでもなく田島の看病をする由月へ目を向ける。


「由月サンは、大丈夫でしょうか……」

「大川サンがどうかしたのか?」

「本当は体中痛いんじゃないかって……トラックで正門に突っ込んだから……」

「えぇ!?」


 そう言えば、吉沢と共に車庫を目指す最中に、正門方面で激しい衝突音を耳にした気がする。

そのお陰で死者の多くが方向転換し、車庫に避難する時間を得られたのだが、

あれが由月の仕業だったと知るなり、統也は手に抱えていた銃器を日夏に押しつける。


「悪い、日夏、これで最後だからっ、運び込んだらお前も休んで良いからっ、平家サンも、」

「えっ? と、統也サンは?」

「俺は田島の様子を聞いて、暫く見張りをする」

「それなら僕もっ、」

「後で起こすから交代してくれ。良いか?」

「は、はい! 分かりました! 頑張ります!」


 日夏のこの『頑張ります』が、統也は好きだ。

ポンポンと日夏の肩を叩くと、統也は由月と田島の元へと走る。


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