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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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 何と無く居場所が無い仁美は吉沢に言われたセダン車に向かうが、1人で先に休む気にもなれず、ワンボックスカーの前で日夏と話す統也の元へ駆け寄る。


「ねぇ、なに話してんの?」

「あぁ、平家サン。

明日は朝一でここを出られるように、荷物の搬入を済ませておこうと思って」

「荷物って?」

「自衛隊車両に救急箱と工具、銃も何丁か積まれているんで、

今の内にそれを岩屋サンの車に移しておきたくて。

吉沢サンは怪我もしていますし、運転できるのは岩屋サンだけですから、

この1台で ここを出る事になると思います」

「そっか。そんなら手伝う」

「そうですか? 助かります。

それじゃ、使えそうな物があったら、後ろの座席に積んで貰えますか?

日夏は俺と銃の移動な」

「はい、統也サン!」


 3人は手分けして荷物を搬入。

運転席で眠っているのを起こさないよう静かに静かに。


 一方の由月は田島を蛍光灯の下に置き、顔色を確認すると、引き留めた吉沢を振り返る。


「座ってください。包帯を取り替えましょう」

「ぁ、あぁ……これなら大丈夫よ? 出血も納まったし」

「見ておきたいの」

「研究? 本当に熱心なのね、アナタは」


 由月は壁に沿って並べられた木箱を引き摺り、吉沢の姿を隠す様に並べ直す。

生々しい傷痕を人目に晒さない為の木箱のブラインドだ。

由月は膝をついて吉沢の包帯を解くと、目を細める。


「酷い……」


 大きな歯形がハッキリと分かる程の深い傷。

傷口に貼り付けたガーゼは真っ赤に染まり、握れば血が絞れそうだ。

統也は兎も角、由月の目までは誤魔化せなかった事に吉沢は溜息をつく。


「悪いわね……外の化け物が騒がしいのは、私の所為」

「鎖骨にヒビが入っています。喋らなくて結構です」

「傷は深いみたいだし……もう、駄目かしらね……」

「自衛隊では、そんな諦めも教え込まれるのかしら?」

「まさか」

「そう。それなら何の心配もいりません」

「……アナタは、不思議な人ね?」


 由月は救急箱から新しいガーゼと包帯を取り出し、吉沢の手当てを始める。

傷口を圧迫しないよう、それでいて確りと。

慎重な由月を見やり、吉沢は力無く笑う。


「初めてアナタを見た時は、何て冷たそうな人だろうと思ったけど」

「その見識に誤りは無いかと」

「でも違った。アナタ、とても優しい」

「その見識には些かの誤りがありようです」

「N県へ向かう時、私は怖くて仕方が無かった。

何で挙手しちゃったのかって、後悔したくらい。

だって、連れて行くのは素人と子供で、たった3人で守れるものかって……

でも、アナタの冷静さと、『生き延びて欲しい』と言う言葉に目が覚めた」

「……」

「どうして? どうしてそんなに強くいられるの?

こんな状況なのに、アナタが動じているようには見えないわ?」


 無神経だと言いたいのでは無い。

平静を装える由月の強い精神力に、吉沢は疑問を呈してならないのだ。

由月は目を伏せる。



「私は……強くなんかない」



 由月が思い返すのは、世界に変調が訪れた初日の事。

早朝から大学の研究室に詰めていた所、外の騒がしさに窓から顔を出せば、恐ろしい光景が目に飛び込んで来たのだ。

そこには、自殺する者・次第に蘇える者・生きたまま食われる者・気が狂れたのか、奇声を発して走り回る研究生の姿で溢れていた。

まさに地獄絵図。



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