表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックビート  作者: 坂戸樹水
125/140

125


 岩屋は唸る。


「うーん。良く分かんねぇじゃぁ困んだけどなぁ……

歩いて人を襲うってのに、考え方は欠落してるってのもなぁ。

センセ、そこんトコの説明は出来るのか?」

「はい」

「それって、難しいのか?」

「個人の問題かと」

「念の為、お願いしたいんですが……」

「分かりました」


 後学の為にも耳に入れておく必要はあるだろう。

統也がペコリと頭を下げれば、由月はコホン、と小さく咳払い。

なるべく解かり易い言葉を選んで話を進める。


「脳は役割分担された、幾つもの組織の集合体です。話す事・覚える事・歩く事、

その他諸々の活動を含み、別々の組織が行っています」

「そうなると、意思疎通が出来ないからって、歩けないわけじゃない、って事ですか?」

「ええ。歩行に対するバランス感覚は小脳や中脳が担っています。

少なくとも彼等の脳は、その機能が僅かに残っている」

「だから歩けるのか……」

「由月サン、食欲も……別の部分なんですか?」

「空腹中枢を含む、本能の行動を担うのが視床下部。

彼等の動きを見る限り、この組織が極端に活性化しているわ。

この事から、視床下部の影響が中脳まで届き、小脳の付近で弱まっていると仮定できます。

他にも彼等の持てる感覚から、視覚・聴覚・嗅覚、

それと、生きた人間ばかりを襲う事から、味覚が無いとも言いきれ無い。

美味しいと思って食べているかは謎ですが」


 敢えて言及されると気味が悪い。仁美は口を押さえる。


「これ等の感覚も総合して、前頭葉・頭頂葉は、ほぼ停止。

側頭葉や後頭葉のみで活動する爬虫類の脳構造に非常に近いと言えます」

「へぇ。ってか、爬虫類の脳と同じとか余計にキモイんですけどぉ、」

「生物が人類に進化するまでの初期段階が爬虫類。そこから哺乳類、霊長類、人類」

「ゎ、私達のご先祖、爬虫類!?」

「脳の構造としては、の話です。

その爬虫類脳は別名、反射脳とも呼ばれているの。

餌があれば食べる。音を立てれば威嚇する。言ってみれば、条件反射。

全てが反射的で極短期的なものだから、感情や思考を持たない。

何であれ、その部分を失えば、彼等は存在の意味を消失する」


 脳を破壊する。そうする事で蘇える事は無いと言う事だ。


(残ったほんの僅かな脳機能……それだけでヤツらは動く。

言い換えれば、ほんの僅か、脳の一部が生きている。だから、死んでいるとは言えない)


 肉体の極一部であっても動いているなら、それを生とするのか。

人として、意思の範囲で機能できなくなった時点を死とするのか。

統也の葛藤は、度々その部分に舞い戻ってしまう。


「あ~頭イタ。もう駄目だ。なに言われても何も解かんねぇ。

後は任せた、俺は寝るぞぉ」


 今日は普段使わない勇気と学習脳をフル稼働させた岩屋の疲労は言外だ。

運転席に戻ると、車を壁際に寄せて停車し直す。

万一、死者がシャッターを破って突入して来ても車を転がされないよう万端の気遣いで以って寝床を確保する様は、流石の安全主義者。


 岩屋が引っ込んでしまったのだ、脱出の算段は整わない儘だが、今は体を休めておくべきか知れない。

夫々が動き出せば、仁美はキョロキョロと車庫内を見回し、口を尖らせる。


「ってか、女子は何処で寝たらイイわけ?」


 車庫の床は固いコンクリート。岩屋と同じ車内で寝るのも女子として気が進まない。

そんな仁美に、吉沢はセダン車を指差す。


「私はセダンの運転席で休もうと思うけど、良ければ後部座席を使ったら?」

「……大川サンはどうすんの?」

「私の事はお構い無く、ご自由にお休みください。

でも吉沢サン、アナタには用があるので、ここに残って貰えませんか?」

「え? ……分かったわ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ